診察中のオーゴー医師(右)。家庭医は白衣はまず着ない。垣根を取り払い、地域に溶け込むアットホームで温かい雰囲気を醸し出す=筆者撮影
診察中のオーゴー医師(右)。家庭医は白衣はまず着ない。垣根を取り払い、地域に溶け込むアットホームで温かい雰囲気を醸し出す=筆者撮影

 新型コロナウイルスの感染者が国内では増加の一途をたどっています。プレッシャーの中で身をていして国民を守ってくれている医療機関の皆さんには感謝しかありません。デンマークでももちろん医療機関は頑張っています。7月31日時点での感染者数は1万3789人、死者は615人、感染者の致死率は4.5%です。日本の致死率2.9%からみると少々高くみえますが、フランスは16.2%、イタリアは14.2%であることからすれば、ヨーロッパの中でも隣国ドイツの4.4%とともにかなり抑えられているといえます。

 さて今回は、デンマークの医療制度についてお話ししましょう。日本のように公的医療保険制度のある国や、アメリカのように民間保険が基本で一部の弱者のみ公的保険が適用される国など、国によって制度は異なります。この制度の違いがコロナ対策にも少なからず影響を及ぼしているとも考えられます。

 まず、デンマークでは医療費は原則無料です。日本の保険制度のように、国民が毎月保険料を払い、医療費の一部を負担するという仕組みではありません。すべて税金で賄われます。どんな高額医療を受けても同様です。たとえば、デンマークは決して大きな国ではないため、分野によっては高度に複雑な治療や手術が国内で受けられるとは限りません。そうした場合には、イギリスやドイツ、フランスなどの外国で治療や手術を受けることができます。かかる費用についてはデンマークが面倒をみてくれます。

 知人の女性の息子さんは以前、デンマークでは治療が難しい病気を患っていたため、イギリスで治療を受けました。女性は「デンマークは小さい国だから、すべてを賄うことはできないのはわかっている。イギリスで治療を受けるのに国が治療費だけでなく滞在費も全部出してくれるので安心して受けられた」と話していました。

 処方された薬代については一部自己負担ですが、年額の上限が決まっており、上限額を超えて支払えば超えた分が戻ってきます。たとえば、成人の場合、995クローネ(約1万7000円)を超えれば、額によって50%、75%、85%の負担となり、1万9465クローネ(約33万円)を超えれば、約7万円だけの負担で、それ以外はすべて国が払ってくれます。18歳以下の子供に…

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銭本隆行

日本医療大学認知症研究所研究員

ぜにもと・たかゆき 1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。  2015年末に日本に帰国し、2016年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムに関する修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わる。現在は札幌市の日本医療大学認知症研究所と名古屋市の日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍しながら地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。ノーマライゼーション理念の提唱者であるデンマーク人の故N.E.バンクミケルセンにちなむN.E.バンクミケルセン記念財団理事も務める。