モノは時とともに、傷みます。私たちの遺伝子も「デオキシリボ核酸(DNA)」という物質にすぎませんから、ただ生きているだけで傷が積み重なっていきます。

 この遺伝子の損傷は「新陳代謝」の代償と言えるものです。 人間の体は37兆個もの細胞からできていますが、細胞は何回か分裂し、自然に死んでいきます。腸の細胞は数日で、皮膚の細胞は1カ月程度で入れ替わると言われます。死んだ細胞を補うために、数百億~数千億もの細胞が毎日生まれていると考えられています。この新陳代謝こそが、がんを生み出す揺りかごです。

 新たな細胞を生み出すための細胞分裂では、遺伝子の複製が行われます。この際に、DNAが不安定になり、突然変異が起こりやすくなります。この変異が細胞の増殖を調整する遺伝子に起こって不死化したものが、がん細胞です。

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中川 恵一

東京大医学部付属病院放射線科准教授

1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2002年から同大病院放射線科准教授。03年からは同大病院緩和ケア診療部長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。