理由を探る認知症ケア

「電話を持って帰った」に込めた思い

ペホス・認知症ケア・コミュニケーション講師
  • 文字
  • 印刷
 
 

 マンションの1階で一人暮らしをしているEさん(70代・女性)は、65歳まで市内のスーパーや飲食店で働いていました。50代半ばの時に、一人娘の長女が嫁いでから一人暮らしになりましたが、長女も同じ市内に住んでいました。何かあったら長女夫婦に相談ができたので、これといって困ることなく過ごしてきました。

 年金暮らしになってからは、週3回はバスに乗って駅前の商店街に出かけ、行きつけのお店の人とおしゃべりをしたり、昔なじみの人と喫茶店でお茶をしたりして、楽しく過ごしていました。

 ところが、ご近所の民生委員さんが、Eさんの様子が少しおかしいと感じて、地域包括支援センターに相談に行くことになりました。

 民生委員さんによると、「道端で会話している時の様子がおかしい」ということでした。でも、日常生活は普通に過ごせているというのです。

・民生委員さんの顔と名前は覚えている

・バスも乗り降りできている

・買い物も普通に行っている

・ゴミ出しの日も間違えない

 人の顔と名前もわかっているし、バスに乗って買い物にも行けるし、曜日もしっかり理解している。およそ認知症とは思えません。しかし、民生委員さんは「同じ話を繰り返す高齢者はいるけれど、Eさんは毎回、初めてのやりとりのような新鮮な反応をしていて、どうしても気になる」とのこと。地域包括支援センターの職員(以下、センター職員)の方と一緒にお宅にうかがうことになりました。

 民生委員さんがEさん宅のチャイムを鳴らしたところ、Eさんは…

この記事は有料記事です。

残り1593文字(全文2223文字)

ペホス

認知症ケア・コミュニケーション講師

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケア・コミュニケーション講師」「認知症ケア・スーパーバイザー」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。アプロクリエイト代表。