実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 予防努力の「副作用」を防ぐ方法

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 新型コロナウイルスに感染すると、重症化する恐れがありますし、無事に回復した後も倦怠(けんたい)感や微熱など、さまざまな後遺症に悩まされることがあります。私はこれを「ポストコロナ症候群」と名付けています(参照:「新型コロナ 回復後も続くだるさや息切れ」)。そして、新型コロナがやっかいなのは「感染中」と「感染後」だけではありません。感染前に予防の努力をしている間にも、その努力の「副作用」でさまざまな症状に苦しめられることがあります。今回はそれらについて解説し、対処法を紹介します。

予防努力に潜む三つのリスク

 私は新型コロナへの感染を防ごうとする中で起こりうる「症状・病態」を次のように三つに分類しています。

 #1 自粛による生活の乱れや運動不足からくる肥満や生活習慣病の悪化

 #2 自粛によるストレスが原因の不眠、不安感、抑うつ感など。高齢者は認知症のリスク上昇。ドメスティックバイオレンスを典型とする同居人や家族間関係に起因する問題。

 #3 消毒液の使い過ぎで起こる手荒れ、マスクに起因する湿疹やニキビといった皮膚症状

 #1、#2、#3とも、場合によっては深刻な事態となります。

 #1は心筋梗塞(こうそく)や脳卒中といった心血管系疾患の発症をもたらし、寝たきりや死亡のリスク増大につながります。

 #2は最悪、自殺につながるおそれがあります。すでに新型コロナがリーマン・ショック以上の不況をもたらす可能性が指摘され、当時よりも自殺者が増えるのではないかという声もあります。ドメスティックバイオレンスはなかなか表に出てこないことから実情の把握は困難ですが、すでにフランスでは被害者が急増していることが報道されています。

自粛の悩みは医師などに相談を

 これら自粛に伴う悩みについては、気になることがあればかかりつけ医に相談することが大切です。外出は極力避ける方がいいですから、電話再診やオンライン診療を利用することを勧めます。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では電話再診で悩みを聞いています。

 肥満や生活習慣病の対策については、谷口医院の患者さんでいえば、多くの方が運動を適切にできていません。自粛が必要であったとしてもウオーキングやジョギングを禁止している地域は日本にはありません。アウトドアならマスクも布マスクだけでOKです。ただし日中は熱中症のリスクがありますから早起きして行動することを勧めています。

 精神的な問題や家族関係などは、電話だけでは解決しないこともあります。自営業者の方から「資金繰りができない」などと言われることもあり、医療者の力の及ばない問題も多々あります。ですが、一人で問題を抱え込むよりも医療者に話をした方がいい場合もありますから、精神症状が表れた場合はまずかかりつけ医に相談することを勧めます。ドメスティックバイオレンスについてはときに行政やNPOが介入すべきこともあります。この場合もかかりつけ医から相談先を紹介してもらうのがいいでしょう。

「単なる肌荒れ」と侮れないことも

 #3も単なる皮膚症状と侮っていられません。「手洗いのし過ぎによる手荒れ」は「強迫神経症」という病気の一症状として以前から悩んでいる患者さんも少なくありませんでした。手の“汚れ・けがれ”が頭から離れず何度も手洗いを繰り返し、あっという間にせっけんを使い切るのです。理性では「そんなことをすべきではない」と分かっているのにやめられない。これが強迫神経症の病態です。

 新型コロナが流行しだしてから、「手荒れ」を訴えて谷口医院を受診する人のなかに、過去に強迫神経症だと診断されたことはないのに、どうしても手洗いや消毒をやめられないという人がいます。そういった人全員に強迫神経症という病名がつくわけではありませんが、話を聞くと「一日に何十回も消毒をしてしまう」と言います。何かに触れるとすぐに、まるで条件反射のように「消毒しなければ」と考えてしまうのです。

 いったんこの思考回路に陥ると抜け出せなくなる場合もありますが、まだ軽症であれば克服できます。そして、克服するための考え方は、過去のコラムで何度か紹介しています。例えば「新型コロナ 感染防止に自信が持てる知識と習慣」で述べたように「顔を触らない」を徹底すればいいのです。そして、手は「いつも不潔でウイルスに汚染されていて当然」と割り切るのです。いくらウイルスが大量に手に付着していても顔(特に鼻の下)を触らなければ感染することはありません。

 一方、手洗いや消毒を過剰に行えば、手荒れを起こし皮膚のバリアー機能が損なわれます。すると、病原体が皮膚を介して体内に入り込んでくることになります。新型コロナウイルスが皮膚から感染することは(おそらく)ありませんが、他の病原体には皮膚の下に潜り込んで増殖するものもありますから、手荒れは防がねばなりません。

 
 

マスクを着けても肌を傷めないには

 マスクの話をしましょう。といってもマスクについては過去に何度も取り上げているのでそちらも参照していただきたいのですが、今回は最近発表された論文を紹介したいと思います。米国皮膚科学会の医学誌「Journal of the American Academy of Dermatology」に「新型コロナウイルスと個人用防護具:個人用防護具の職業上の使用に関連する皮膚状態の治療と予防」というタイトルの論文が掲載されました。この論文は「日常的に長時間、マスクやフェースシールドなどをつける医療者が、そうした防護具による皮膚トラブルをどのように防ぐか」を論じたものですが、マスク関連のトラブル対策として一般の人にも参考になります。

 マスクをすると、耳のそばの、ひもが当たるあたりの皮膚に炎症が生じることがあります。この予防に役立つ製品として取り上げられているのが「ドレッシング材」です。

 ドレッシング材というのは傷や熱傷を起こした皮膚の上に貼る覆いで、傷を早く治すために用いるのですが、皮膚を保護する効果もあります。これをあらかじめ耳の後ろに貼って炎症を防ぐのです。なお、ドレッシング材にはさまざまなものがあり、基本的には医療機関で処方されますが、一部は薬局でも手に入ります。興味のある方はかかりつけ医または薬局に聞いてみるのがいいでしょう。

 マスクの影響で、顔に湿疹(かぶれ)やニキビができることもあります。論文はこの予防法として「洗顔」と「保湿剤の使用」を挙げています。洗顔を適切に行って毛穴の汚れを除去し、保湿剤を使うことにより湿疹が起こりにくくなります。また、論文では触れられていませんが、すでにニキビや湿疹が生じているならまず治療を行わなければなりません。谷口医院の患者さんのなかには、かなり放置していた人(あるいは市販の薬を使っていたが治らずに重症化した人)がいます。ほとんどの病気と同様、ニキビや湿疹も早期治療が大切です。

 この論文で推奨されている最も注目すべき対処法は「2時間に1回、15分間マスクを外す」です。上述した耳の後ろの炎症や湿疹、ニキビを防ぐためです。オフィス内で勤務している人の多くはマスクを外す時間がこれほど長くないのではないでしょうか。実は、私もこの論文のこの部分に驚きました。私自身が守れていないからです。これを順守するには途中で外来をいったん中断しなければなりません。ただ、こういった論文が一流の医学誌に掲載されたということは、完全にできないにしても、この数値、すなわち「2時間に15分」は意識すべきだと思います。

 ここで論文を離れて、私が以前から提唱している「布マスクの使用」を取り上げてみましょう。布マスクはサージカルマスクに比べて効果が劣るのは事実ですが、いつもサージカルマスクを使わなければならないわけではありません。布マスクには「快適さ」という強力な利点があるからです。そして、布マスクにもそれなりに効果があるからこそ、過去のコラム「新型コロナ 快適な布マスク 効果を増す工夫は」で紹介したように、米疾病対策センター(CDC)は布マスクを自宅で作ることを推奨しているのです。

 最近、日本で興味深い発表がありました。8月24日、理化学研究所や神戸大などのチームがスーパーコンピューター「富岳」を使って、飛沫(ひまつ)を抑えるマスクの効果を検討したところ、不織布マスク(サージカルマスク)のみならず布マスクでも効果があることが分かったのです。

 また、米国の科学誌「Science News」は「マスクの新しい研究でわかったネックゲートルを捨てるべきでない四つの理由」というタイトルで、ネックゲートル(鼻から首までを覆う筒状のスカーフ)もマスクとしてのある程度の効果があることを指摘しています。ちなみに、私自身も過去のコラムで自身の写真を載せたようにジョギング時にはネックゲートルを着用しています。

時と場合で使い分けて

 私自身が実践していて、谷口医院の患者さんに提唱しているマスクの使い分けは次のようなものです。

 ・人が少ないところ:マスクは不要

 ・街を歩くときやジョギングのとき:ネックゲートル、シンプルな布マスク

 ・スーパーやデパートの中にいるとき:重ねた布マスク(フィルター入り布マスク)

 ・満員電車やオフィス内:サージカルマスク

 
 

 フィルター入り布マスクは、私は実物を見たことがないのですが、過去のコラムで述べたように米国では推奨されています。

 ところで、「コロナ軽症説」を唱える人たちは、(若い世代の)自粛も特別な対策も不要と言い、なかにはマスクをあえて着用しないという人もいるようです。しかし、新型コロナにかかっても軽症で済むと、誰もが認めているわけではありません。少なくとも現段階では「社会のために」マスクは必要です。

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。