母からもらった腎臓~生体間移植を体験して~

「あなたは人に恵まれている」<連載16回目>

倉岡 一樹・東京地方部記者
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入院案内と、手術前に渡された腎移植レシピエントの心得。職業柄、線を引きながら読み込んだ
入院案内と、手術前に渡された腎移植レシピエントの心得。職業柄、線を引きながら読み込んだ

<15回目までのあらすじ>母をドナー(臓器提供者)とする生体腎移植手術は2019年8月8日に決まった。手術を受ける聖マリアンナ医大病院(川崎市宮前区)での検査は6月までにすべて終え、執刀医の佐々木秀郎医師と初めて面会したのは7月3日の診察。そこで、私の二つの腎臓は取り出さないため、術後は体内の腎臓が三つになることなど手術の説明を受けた。一方、腎機能(eGFR)も7%と、数値的な限界はとうに超えているものの、何とか持ちこたえた。手続きも済ませ、入院日の7月31日を迎える。

         *

 「倉岡さん、いらっしゃいますか?」

 聖マリアンナ医大病院・腎臓病センターの6人部屋。移植手術のために入院した私のベッドに、声をかける人がいた。「はい」と応えると、カーテンから顔をのぞかせたのは寺下真帆医師。

 「ちょっとお話が……」

 表情は硬い。嫌な予感がした。

 入院3日目の19年8月2日。病棟は涼しいが、外は猛暑日だった。

 「実は手術前に、少しだけ人工透析をするかもしれません」

 手術まであと5日。私の腎臓は、それすらもたないのか。

 「できればしたくないのですが」と小声で言うと、「ですよね」と寺下医師。

 「でも、ちょっと間に合わないかなって。腎機能の数値が悪いので、一度透析をして、体の状態を安定させたいんです」

 人工透析を経ない「先行的腎移植」では、手術前に数回、人工透析することがあるという。尿毒症の症状が進んだ場合や、体に水がたまった場合など、容体がよくないまま手術に臨むと、命の危険があり、術後にも影響が出る可能性があるからだ。

 私の腎機能の数値(eGFR)は7%、血清クレアチニン値は7.6。入院前から37度台の熱も続いていた。何より、順調に来ていた血糖のコントロールもままならなくなり、インスリン注射が始まっていた。状態はとうに透析開始の水準。医師の前では相変わらず元気なふりをしていたが、それも意味をなさな…

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倉岡 一樹

東京地方部記者

1977年生まれ。早稲田大卒。2003年、毎日新聞社に入社。佐世保支局を振り出しに、福岡報道部、同運動グループ、川崎支局、東京運動部、中部本社スポーツグループなどを経て、19年4月から東京地方部。スポーツの取材歴(特にアマチュア野球)が長い。中学生の一人娘が生まれた時、初めての上司(佐世保支局長)からかけてもらった言葉「子どもは生きているだけでいいんだよ」を心の支えにしている。