発達障害やその疑いのある人の配偶者などに多い「カサンドラ症候群」について聞かれることが増えてきました。私の相談室にも時折、カサンドラ症候群について相談したいという方が来られます。

 カサンドラ症候群とは、家族やパートナーなど生活の身近にいる人が自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群、以下ASD)であるために、情緒的な相互関係を築くことが難しく、心的ストレスから不安障害や抑うつ状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの心身症状が起きている状態を指す言葉です。正式な疾患名ではありません。カサンドラ症候群の方は女性が多いのですが、これはパートナーである男性にASDが多いことによるのではないかと思います。

 Aさんは結婚歴10年の専業主婦でした。息子さんがアスペルガー症候群と診断され、自閉症の特性や対応について学ばれたことから、自分のパートナー(夫)も息子と似たところがあることに気づき、夫に対する対応の難しさを改めて感じたということでした。Aさんは真面目できちょうめんで忍耐強く面倒見が良いタイプの方でした。このため息子さんの対応については母親としてとても優等生で、発達障害の子育てのサークルや親の会でも他の親にアドバイスをするなどリーダー的な存在でした。息子さんもAさんの工夫によりかんしゃくを起こすことが減り、さまざまなことができるようになっていったのですが、夫のほうはそんなAさんの子育ての工夫や努力を認めるどころか「そんなことまでしなくてよい」と否定してしまっていました。

 夫は、会社では、融通の利かないところはあるものの真面目できちょうめんな人物として評価され勤務を続けてきましたが、帰宅すると好きなゲームに没頭し、子育てに協力しないばかりか、ゲームがうまくいかなかったり、息子が大声をだしたりすると、家具を倒したり、息子やAさんに感情的に当たったりしていました。お金の使い方も自分の趣味には糸目をつけずお金をつぎ込む半面、子どもの教育費や生活費については極度に細かい部…

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井上雅彦

鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座教授

鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座教授。専門は応用行動分析学、臨床心理学。同研究科付属臨床心理相談センターで発達障害を中心に当事者や家族の相談を受けている。公認心理師、臨床心理士、専門行動療法士などの資格を持ち、ペアレント・トレーニング・システムなどの支援プログラムを開発。主な著作に「発達が気になる幼児の親面接:支援者のためのガイドブック」(共著、金子書房)、「発達障害&グレーゾーンの小学生の育て方」(監修、LITALICO発達ナビ編集部協力、すばる舎)など。