医療プレミア特集

北海道コロナルポ(下) 意外な感染ルート

医療プレミア編集部
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新型コロナの感染が広がった介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」で防護服を着て入所者の世話をする職員=札幌市北区で2020年5月20日(社会福祉法人「札幌恵友会」提供)
新型コロナの感染が広がった介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」で防護服を着て入所者の世話をする職員=札幌市北区で2020年5月20日(社会福祉法人「札幌恵友会」提供)

<中までのあらすじ>2月中旬に道内在住者初の感染が確認され、児童にも感染が拡大。全国初の小中学校一斉休校を実施し、道内初のクラスター(感染者集団)も判明した。感染は各地に広がり、道独自の緊急事態宣言に踏み切った。しかし、経済活動を重視した宣言の解除で感染者は倍増し、4月半ばに「第2波」が襲う。医療過疎地域では出張医を運ぶ定期便が減り、札幌市で医療機関初のクラスターが確認された。

 「薬はどこだ」――。大型連休中の5月5日、札幌市北区の介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」で、看護師の佐藤千春(58)は途方に暮れた。入所者らが新型コロナウイルスに次々感染し、クラスターと認定された施設。運営する社会福祉法人「札幌恵友会」の別施設で勤務していた佐藤は、この日初めて応援に入った。

 廊下を徘徊(はいかい)する入所者。ベッドで身動きできない重症患者。佐藤は異様な光景にたじろいだ。だが一刻の猶予も許されない。防護服を身にまとった佐藤は、汗だくになりながら点滴などの作業に追われた。

 夕方、新型コロナに感染した男性の容体が急変した。「頑張って」「日が昇ったよ」。ベッドの傍らで介護職員らと翌朝まで声を掛け続けた。だが、男性は6日に息を引き取った。施設内で亡くなった入所者は3人となった。

 施設内でのみとりは続く。佐藤は「昨日まで元気に歩いていたと思ったら、発熱した翌日亡くなる入所者もいた」と振り返る。入所者の遺体は施設職員が感染防止用の納体袋に包み、見送った。

 施設内には4人部屋が21室、2人部屋が8室。高齢者95人が共同生活していた。4月26日、入所者1人に最初の感染が確認された。感染者は短期間で一気に15人となり、保健所は28日、クラスターと認定した。

 法人の担当者は「職員総出で対応に当たっている。入居者らの検査を終えてから、今後の対応を判断したい」と語った。だが大勢が共同生活を送る密閉空間で、瞬く間に感染は広がる。

 感染は、看護師や介護職員にも及ぶ。「明日から来ません」。感染を恐れ、こう告げてやめていく看護師も出た。当初46人いたスタッフは5月に入り、11人となった。

 「感染者を施設から病院に移してください」。手が付けられない事態となり、職員らは市保健所に何度も訴えた。だが、道内の病床は逼迫(ひっぱく)を極める。5月2日には、治療中の感染患者が499人に達し、ピークを迎えた。市保健所は「要介護者を受け入れるベッドがありません」。施設内での療養を求めた。

 おじいさんやおばあさんがバタバタと倒れていく惨状を前に、佐藤は無力感を感じた。「同じ感染者。なのになぜ、施設の入所者だけは病院に入院させてもらえないのか」

 5月12日、アカシアハイツ入所者の病院移送が始まった。最初の感染確認から半月が過ぎていた。札幌市は16日、現地対策本部を設置した。既に、15人が亡くなっていた。

 最終的に入所者95人のうち71人が感染。看護師を含む職員21人も感染し、計92人の感染者を出す道内最大のクラスターとなった。死者は17人。法人理事の一人は悔やんだ。「もっと早く入院させてもらえれば助かる命があったかもしれない」

 5月下旬、道内の感染者は落ち着きを見せる。約40日間に及んだ政府の緊急事態宣言が解除されようとした時、ある線引きを巡って攻防が起きた。

 「感染状況が一律でない状況を踏まえ、振興局ごとに整理する必要がある」

 「振興局ごとに対応を変えることが適当かどうか異論もある」

 5月12日午後5時半、道庁3階・知事会議室。知事の鈴木直道(39)を前に、事業者に対する休業要請の緩和を巡り議論が交わされた。副知事ら幹部は「打ち合わせ」と称する重要会議で、政府…

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