認知症の人へのケアは笑顔を生み出す効果もある=デンマーク・ミドルファート市の高齢者施設で、筆者撮影
認知症の人へのケアは笑顔を生み出す効果もある=デンマーク・ミドルファート市の高齢者施設で、筆者撮影

 前回はデンマークの認知症コーディネーターの話をしましたので、今回は認知症に関連して、薬を使わない“治療”についてお話しましょう。認知症を根治させる治療法はありません。しかし、関連する症状を和らげることができる治療法はあるのです。

 認知症に対する治療法として、三つの柱があるとされています。▽薬物療法▽ケア▽非薬物療法――です。この中で、一般的に理解しやすいのが、薬物療法でしょう。病気を薬によって治療するというのは、まさに医療の基本ですから。しかし筆者は医師でないため、薬物療法の説明は他の方に譲ります。ただ、認知症を根治させる薬は現時点では存在しません。認知症のための薬は、認知症の種類や重症度によっても異なりますが、症状の進行をゆるやかにすることが主な効果となります。

無限の力がある「ケア」

 次の治療法として、ケアが挙げられます。認知症の人は、日常生活に支障が出てケアが必要となっていることが多く、生活を支えるケアは欠かせません。十分なケアを受けて落ち着いた状態を保つことで、周辺症状と呼ばれる興奮、うつ、妄想、徘徊(はいかい)などの状態を和らげることができます。「症状を改善させる効果がある」という意味で、ケアも治療法といえるのです。

 「ケアには無限の力があります」

 知り合いの介護士はこう断言します。日常のケアには、薬にも匹敵する大きな意味があるのです。この言葉を裏付けしようとしている社会福祉法人を見学したことがあります。富裕層向けのサービス付き高齢者住宅を運営しており、駅から至近。部屋の広さにもよりますが、介護費なども含め、1カ月に70万円ぐらいの入居料がかかることもあります。社会福祉法人の理事長は「費用はかかりますが、できる限りの介護をすることで、介護の力を試したいと思いました」と事業を始めたきっかけを教えてくれました。将来的にはここで得た知識経験をもとに、一般的な費用でこうしたケアを実現できるようにしたいとも話…

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銭本隆行

日本医療大学認知症研究所研究員

ぜにもと・たかゆき 1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。  2015年末に日本に帰国し、2016年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムに関する修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わる。現在は札幌市の日本医療大学認知症研究所と名古屋市の日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍しながら地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。ノーマライゼーション理念の提唱者であるデンマーク人の故N.E.バンクミケルセンにちなむN.E.バンクミケルセン記念財団理事も務める。