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時に凶悪な肺炎球菌 ワクチンのススメ

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
 
 

 患者さんが混乱していることが多く、それを説明するのに労力を使うことになるワクチンの一つが肺炎球菌ワクチンです。ワクチンシリーズではこれまで多くのワクチンを紹介してきましたが、今回取り上げる肺炎球菌ワクチンほど、接種のための制度が複雑なものは他に見当たりません。それでもこれは、乳幼児や高齢者のみならず成人で免疫が低下している方にもお勧めしたい大切なワクチンです。

 なぜ、そんなにも複雑なのか。その最たる理由は「ワクチンが2種類ある」ことなのですが、それだけではなく「年齢によって片方しか打てない」「公費負担がある場合とない場合がある」「その公費負担の適用基準が複雑」「追加接種のルールが複雑」「どちらかを選べと言われても何を根拠に決めるべきか分からない」「一部は保険診療で接種できる」など、事情が入り組んでいます。2020年5月29日、2種類の一つである「PCV13(プレベナー13)」という名のワクチンについて、公的に認められる接種範囲が広がり、肺炎球菌による病気にかかるリスクが高い人は、年齢が何歳でも接種可能となりました(以前は6~64歳は自費でも打てませんでした)。今回はこの規則変更で少しだけわかりやすくなった肺炎球菌ワクチンを取り上げます。

日ごろ体にいる菌だが時には凶悪

 まずはワクチンの前に「肺炎球菌」という病原体を簡単におさらいしておきましょう。この細菌は、小児も含めて多くの人の鼻腔(びくう)や咽頭(いんとう)に日ごろからいる細菌です。腸内の善玉菌のように人に利益をもたらすわけではありませんが、普段はある意味でヒトと「共生」しています。ですから、例えば赤痢、腸チフス、コレラといった高い病原性を持ち健常者をも死に至らしめるようなタイプの細菌とは異なります。それでも時に、肺炎や髄膜炎を起こし“殺人細菌”と化すこともあります。

 肺炎球菌には多数の種類があり、現在は90以上のタイプがあることが分かっています。イメージとしては、ワクチンシリーズで何度も紹介しているHPV(ヒトパピローマウイルス)と似ています。細かいことを言えばHPVと肺炎球菌はまったく異なり、同列に扱うべきではないのですが、「多くのタイプがあり、その番号によって病原性が違う」のは同じだと考えていいでしょう。

 肺炎球菌は顕微鏡で観察することができます。「ここに写っているのが肺炎球菌で間違いない!」と断定することは困難なのですが、グラム陽性の球菌、つまり、グラム染色(細菌を染める方法)で濃い青に染まる丸い菌(ただし私の印象では楕円<だえん>形に近い)が二つ、ペアになってみえます。これを「グラム陽性双球菌」と呼びます。

免疫が弱ると牙をむく

 肺炎球菌が牙をむくのは免疫が弱っている時です。どんな時かというと、一つは、まだ免疫システムが確立していない時期、つまり小児期です。もう一つは加齢で免疫が低下する時期、すなわち高齢期です。また、高齢ではない成人も、何らかの理由で免疫が低下した場合には要注意です。具体的には心臓や肺、肝臓、腎臓などに重症の病気がある人、重症の糖尿病の人、HIV(エイズウイルス)陽性の人などです。交通事故などで脾臓(ひぞう)を摘出している人も注意が必要です。脾臓はあまり目立たない臓器ですが、免疫系には重要であり、脾臓のない人が肺炎球菌に感染すると、数日間で命を失うこともあります。また、まれではありますが生まれつき脾臓がない人もいます。

 そこで、ワクチン接種が勧められるのは、まず小児と高齢者、そして持病などで免疫が低下した成人、ということになります。

顕微鏡をのぞく谷口恭医師。細菌を染色した結果をこうして確認する=高木昭午撮影
顕微鏡をのぞく谷口恭医師。細菌を染色した結果をこうして確認する=高木昭午撮影

 さて、日本で最初に肺炎球菌のワクチンが認可されたのは10年で、接種対象は、高齢者ではなく、6歳未満の小児でした。7価肺炎球菌結合型ワクチン(「PCV7」、商品名は「プレベナー」)が任意接種として導入されました(なお、「7価」とは肺炎球菌のうち七つのタイプに有効、という意味です)。このワクチンは、13年4月に定期接種となりました。つまり、接種が公的に勧められるワクチンとされ、接種料金(の一部)が公費負担となったのです。その7カ月後の13年11月、13価の、つまり肺炎球菌のうち13タイプに有効なワクチン(「PCV13」、商品名は「プレベナー13」)が登場し、PCV7と入れ替わりました。PCV7よりもPCV13の方が多くのタイプに効く、と単純に考えてOKです。

 ややこしいのはここからです。先述したように免疫が弱いのは小児だけではなく高齢者もです。そこで、高齢者を救うべく14年に、23価肺炎球菌莢膜(きょうまく)ポリサッカライドワクチン(「PPSV23」、商品名は「ニューモバックスNP」)が、65歳以上を対象として定期接種となりました。

2種類のワクチンと複雑なルール

 同じ病原体に対するワクチンが2種類あるというこの時点ですでに複雑ですが、さらに複雑なルールができました。それは定期接種の対象者についてです。「65歳以上全員」ではなく、「その年度に65、70、75、80、85、90、95、100歳、および100歳以上になる人」のみが対象とされたのです。さらにややこしいのは、免疫が低下している60~64歳の人も対象とされ、さらに脾臓を摘出した人は、2歳以上なら(定期接種ではなく)保険診療で接種可能とされたことです。

 ここで二つのワクチンの対象者を整理しておきましょう。

 【PCV13】

 ・生後2カ月から6歳未満:定期接種。無料(自治体によっては自己負担があるかもしれません)。

 ・6~65歳未満:20年5月29日から、肺炎球菌による病気にかかるリスクが高い人は自費での接種が可能

 ・65歳以上:(以前より)自費で接種可能

 【PPSV23】

 ・2~59歳:肺炎球菌による重い病気にかかるリスクが高い人は自費での接種が可能。脾臓がない人は健康保険で接種できる

 ・60~64歳:免疫が低下している人は料金(の一部)を公費負担で、していない人は自費で、脾臓がない人は健康保険で接種できる

 ・65歳以上:65、70、75……と5歳ごと、および100歳以上は料金(の一部)を公費負担で、その他の年齢は自費での接種が可能

「効く幅が狭いが強」と「幅広く効くが弱」

 では、これら2種のワクチンの違いを整理していきましょう。PCV13(及びPCV7)は「結合型ワクチン」、PPSV23は「ポリサッカライドワクチン」です。

 これまでこのシリーズで、ワクチンには2種類あり、ひとつが「生ワクチン」、もうひとつが「不活化ワクチン」だと述べてきました(新型コロナではこれらに該当しない新しいワクチンの開発が進められています)。PCV13とPPSV23のどちらかが生ワクチンでどちらかが不活化ワクチンであればすっきりするのですが、残念ながらそうではありません。これらは二つとも不活化ワクチンです。そして「結合型ワクチン」と、「ポリサッカライドワクチン」は、不活化ワクチンの中での種類を表す言葉です。詳しい説明は省略しますが、結合型ワクチンの方が予防効果が強力だと理解して差し支えありません。PCV13はカバーできる肺炎球菌のタイプが13種しかないけれど強力なワクチン、PPSV23は23種と多数のタイプをカバーするけれどワクチンの力は弱い、となります。費用は、自費の場合はPPSV23の方が安くなります。

 
 

 では、誰がどちらのワクチンをどのようなスケジュールで接種すればいいのでしょうか。これは個人の状況によって異なります。後で、大まかな考え方を説明しますが、最終的な回答は「各自かかりつけ医に相談してください」となります。

 例えば「現在62歳で、中等度の糖尿病がある」という人がいたとしましょう。この場合、①65歳まで待ってPPSV23を無料で打つ②今すぐPPSV23を自費で打つ③今すぐPCV13を自費で打つ、の三つの選択肢があります。さらに、ややこしいのは追加をどうするかです。仮に②を選んで今すぐPPSV23を打ったとして、追加接種をどちらのワクチンにするか、どちらを選ぶにしても時期はいつがいいのか、といったことを検討せねばなりません。

いつ、どちらを打つかの目安は

 このように最終的には個別に検討となるのですが、ここでは年代ごとの大まかな接種スケジュールをみていきましょう。なお、以下の一覧にある説明はいずれも、過去に肺炎球菌ワクチンを打ったことがない人についてです。

 ・生後7カ月まで:2~7カ月にPCV13の1回目接種、その後3回のPCV13追加接種。合計4回接種。すべて無料(一部の自治体では自己負担があるかもしれません)。

 ・生後7~12カ月:ただちにPCV13の1回目接種、その後PCV13を2回接種、合計3回接種。すべて無料(一部の自治体では自己負担があるかもしれません)。

 ・生後12カ月~5歳:ただちにPCV13を1回接種。1回接種のみ。無料(一部の自治体では自己負担があるかもしれません)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 ・5~64歳で肺炎球菌による病気のリスクが高い人

 =プランA:しかるべきタイミングでPCV13を1回接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 =プランB:しかるべきタイミングでPPSV23を1回接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 ・5歳以上で、過去に脾臓を摘出した人(または脾臓が生まれつきない人)

=プランA:保険診療(通常は3割負担)でPPSV23接種。2回目以降はかかりつけ医と相談。

=プランB:自費でPCV13接種。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 ・60~64歳で重症の心疾患、腎疾患、呼吸器疾患、HIV感染症などがある人

=プランA:定期接種としてPPSV23を接種(無料か、一部が公費負担)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

=プランB:自費診療でPCV13を接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 ・65、70、75……100歳、100歳以上

 =プランA:定期接種としてPPSV23を接種(無料か、一部が公費負担)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 =プランB:自費診療でPCV13を接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 ・66~69歳、71~74歳……96~99歳

 =プランA:70、75歳など定期接種のタイミングまで待つ。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 =プランB:自費診療でPPSV23を接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 =プランC:自費診療でPCV13を接種(有料)。2回目以降はかかりつけ医と相談。

 参考までに、自費でそれぞれのワクチンを接種する場合、費用は医療機関ごとに異なりますが、およその目安としてPCV13なら1万円前後、PPSV23は8000円程度です。ちなみに、私が院長をつとめる太融寺町谷口医院では、肺炎球菌ワクチンの希望があった場合、診察室でこれらの説明を行い、個別に相談に応じています(ご想像通り、時間はそれなりにかかります)。

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。