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新型コロナ 受診や検査を邪魔する「プライド」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
 
 

 新型コロナウイルスの国内の感染者が約9万人にのぼり、1日の感染者が過去最多を記録する地域もあるなか、自粛を解禁するような動きが広がっています。Go Toトラベルキャンペーンが脚光を浴び、有名なホテルはすでに予約が取りにくくなっていると聞きます。Go Toイートキャンペーンを利用して、自粛ムードを吹き飛ばすべく気の置けない仲間と舌鼓を打つという人も増加するでしょう。福岡県は10月8日に「福岡コロナ警報」を解除し、大阪府は同10日に「多人数での飲み会自粛」を解除しました。

 そういった「自粛解除」の影響を受けてなのか、太融寺町谷口医院にも新型コロナを人ごとのように考える人が増えています。二つの事例を紹介しましょう(ただしプライバシー確保の観点からいつものように若干のアレンジを加えています)。 

「私の症状はコロナではありません」

 【事例1】40代男性

 数年前から谷口医院をかかりつけ医にしている40代の男性。咽頭(いんとう)痛、発熱、倦怠(けんたい)感があり当院に電話で相談されました。原因にかかわらず発熱がある場合は「発熱外来」に来てもらわねばならないことを説明し、一般の患者さん全員に帰ってもらった後に受診してもらいました。なお、「発熱外来」は、1日2回、午前の一般診療が終わった13時45分以降と、午後の一般診療が終わった19時45分以降に開いています。受診者は受付を介さず、直接「隔離室(quarantine room)」に入ってもらいます。診察はPPE(個人防護具、つまりN95と呼ばれるマスクやガウン、グローブなど)を装着して行います。

 男性:「いつもの細菌による咽頭炎だと思います。抗菌薬を処方してください」

医師(私):「たしかにあなたはよく細菌性咽頭炎を起こしますが、今回もそうだとは限りません。まず咽頭に菌がどれくらいいるか調べましょう」

 咽頭を綿棒でぬぐい、採ったサンプルにグラム染色(細菌を顕微鏡で観察する検査)を行うと、細菌像は目立たず、細菌感染は疑えません。それに、この男性が過去に何度か起こしたことのある細菌性咽頭炎のときよりも、表情や話し方から倦怠感がやや強いように私には感じられました。

 医師:「顕微鏡の像からは細菌感染が疑えません。このケースは新型コロナを疑うべきです。コロナの検査をしませんか」

 男性:「先生が勧められるなら考えますが、症状はいつもの細菌性咽頭炎と同じなんです。感染するようなところには行ってませんし、せきも味覚障害もありません」

 これ以上しつこく言えば患者医師関係が崩れてしまうかもしれません。そこで次のような提案をしました。

 医師:「分かりました。しかしコロナの可能性もあるということは覚えておいてください。仕事は休んでください。明日、様子をうかがうために電話しますね」

 翌日の朝一番に電話をしましたが通じません。夕方、男性のほうから電話がありました。

 男性:「だんだんしんどくなってきたので明け方に救急病院を受診したんです。やはり先生と同じように救急病院でもコロナの検査を勧められて受けてきました」

 その翌日、今度は保健所から電話がかかってきました。やはり結果は陽性で新型コロナに感染していたとのことでした。

「Go Toトラベル」に東京が加わって初の週末を迎え、観光客らでにぎわう祇園・花見小路=京都市東山区で2020年10月3日午後1時49分、川平愛撮影
「Go Toトラベル」に東京が加わって初の週末を迎え、観光客らでにぎわう祇園・花見小路=京都市東山区で2020年10月3日午後1時49分、川平愛撮影

「こんなクリニックには二度と来ません!」

 【事例2】20代女性

 谷口医院を半年前に一度、受診していたものの、「かかりつけ医にしている」とまでは言えない20代の女性。ある日、予約なしでやってきました。谷口医院ではすべての患者さんに対し、受け付け時に「発熱やせき、咽頭痛などがないか」を尋ねます。女性は「38.5度の発熱があるから来た」と言います。

 直ちに受付スタッフが入り口の外に出るように言ったのですがすぐには応じようとしなかったそうです。ようやく渋々承諾し、そしてひとりの看護師がPPEを着用しこの女性に話をしにいきました。

 看護師:「熱がある患者さんは、他の患者さん全員に帰ってもらってから発熱外来に来てもらっています。今は通常の診察時間ですからいったんお帰りいただきます」

 女性:(激高して)「コロナなんかじゃありません! 味覚障害がないんですよ! もうこんなクリニックには二度と来ません! きちんと診てくれるクリニックを探します!」

 おそらくプライドの高い女性なのでしょう。受付で出直しを求められたことに我慢ならなかったのだと思います。実は、この女性のように「発熱外来にお越しください」と言うと、怒り出す人や、言葉は穏やかでも不満そうな表情になる人は少なくありません。

一般診療と「発熱外来」を分離するわけ

 確かに従来は、発熱した人でも予約なしでそのまま診療していました。しかし新型コロナの院内感染は絶対に起こしてはなりません。他の患者さんとは「時間的に」、もしくは「空間的に」隔離しなければならないのです。谷口医院の場合、入り口はひとつしかなく「空間的隔離」はできません。そこで、一般の患者さんとは異なる時間に受診してもらう「発熱外来」を設けているのです。

 事例2はともかく、事例1については、患者さんの気持ちは理解できます。細菌感染を繰り返していて、いつもの症状と同じだから今回も細菌感染だろうと考えるのは無理もありません。私が「コロナの可能性があります」と言ったことに対して「自分はそうは思わない」という意思表示をされたものの、会社を休むことには同意してくれました。結果として、救急病院で新型コロナの検査をすることになりましたが、その病院を受診していなくても、翌日の電話で再度コロナの検査を勧める予定でしたから、症状が持続していれば最終的には検査に同意されたと思います。

その後、受診はできたのでしょうか

 事例2が問題なのは、単に谷口医院の方針に従ってくれなかったからだけではありません。カルテで住所を調べると、谷口医院から1時間くらい離れた大阪府内の住宅街であることが分かりました。女性の勤務先は谷口医院の近くです。看護師によると、女性はスーツ姿だったそうですから、職場を抜けて来院したのでしょう。ほとんどの企業が従業員に「発熱があれば出社しないように」と指示を出していますから、この女性は勤務先に発熱があることを黙っているのでしょう。そしておそらく電車で通勤しています(自動車通勤を認めている企業はこの界隈にはほとんどありませんし、車の方が時間がかかるからです)。

 
 

 若い女性が38.5度の発熱がある状態で満員電車に乗り、症状を隠して企業内で通常業務を行うことに問題があるのは明白です。ちなみに、大阪では重症者の約6割が「感染経路不明」です。

 ところで、この女性は「きちんと診てくれるクリニック」に無事たどり着けたのでしょうか。少し前に谷口医院が所属する大阪市北区医師会に直接尋ねたところ、「今のところ疑いを含めた(発熱の)患者の対応をしているクリニックは(谷口医院の)ほかに無いだろう」とのことでした。「きちんと診てくれるクリニック」を受診しコロナの検査が実施され陰性であれば問題ないかもしれませんが、「きちんと診てくれるクリニック」が見つからずにそのまま仕事・通勤を続けているとしたら……。

 この連載では新型コロナの検査を拒否する人が少なくないことを述べてきました。「2週間も休めない」(参照:「新型コロナ 『全員入院』が招く検査拒否と医療崩壊」)「感染が分かれば差別される」(参照:「新型コロナ 差別を恐れ検査を嫌がる人たち」)「過去にかかって抗体ができた(と思い込んでいる)」(参照:「新型コロナ 『二度とかからない』との思い込み」)などがその理由です。それらに加えて、コロナに感染したと疑われたり、通常枠では診察してもらえなかったりすることに我慢ならない、患者の「プライドの高さ」も理由のひとつといえそうです。

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。