医療プレミア特集

「命は自分だけのものではない」 ALS当事者の思い

医療プレミア編集部
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参院厚生労働委員会に参考人として出席し、資料に目を通す岡部宏生さん(中央)=国会内で2016年5月23日、宮武祐希撮影
参院厚生労働委員会に参考人として出席し、資料に目を通す岡部宏生さん(中央)=国会内で2016年5月23日、宮武祐希撮影

 神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に頼まれ、薬物を投与して殺害したとして医師2人が嘱託殺人の疑いで逮捕されました。この事件をALS患者自身はどのように受け止めているのでしょうか。日本ALS協会の岡部宏生前会長(62)に、寄稿していただきました。【医療プレミア編集部】

 今回の事件には大変な衝撃を受けました。ALSの患者があのような亡くなり方をしたということと、その方法があまりに想像を超えているものだったからです。これは「安楽死」に名を借りた嘱託殺人、または自殺ほう助が行われたということになると私は思います。しかも、患者と医師との間には面識はなく、SNSでつながっているのみであることと、事前に金銭が支払われていることにさらに驚きました。ここまでいくと、殺人を請け負う人がいるということになります。

 被害女性に対しては、二つ強く思うことがあります。一つは、死にたくなる気持ちはよくわかるつもりだということ。私も何度も死にたくなりましたから。8年ほど前、安楽死を真剣に考えて、(日本ケアラー連盟代表理事の)児玉真美さんのブログで、スイスに行けば死ねることを知りました。そのときに「自分も死ねるのだ」と知って、どれほどほっとしたことか。

 それから誰に連れて行ってもらうか、いくら払えばよいかまで具体的に考えました。でも、ある程度私の介護ができるような身近で深い関係の人でないと、連れて行ってもらうことは不可能です。その人の心に残る傷を考えたら、とても言い出せないことがわかって、結局「自分は死ねないのだ。これからは覚悟を決めて生きないと」と思ったものです。被害女性は自分に関わっている人のことを考えなかったのでしょうか? 考えたからこそ会ったこともない人に頼んだのかもしれません。しかし、それでも被害女性に関わっていた人たちにどれほどの心の傷を残したことでしょう。

 二つ目は、死にたい気持ちを医師たちが後押ししてしまったこと。誰だって死にたいと思うようなときもありますが、ALSのような過酷な病気だと、死にたくなることがよくあるのが当たり前です。私も今でもつらいことがあると死にたくなります。生きたい気持ちと死にたい気持ちを繰り返しながら、日々を過ごしているのです。

 そのつらい時、死にたい時に死ぬ方法を具体的に検討できてしまったら、その気持ちを固めていってしまいます。生きたいという気持ちに戻って来られなくなります。これは、患者として一度は突き詰めて死のうと思った私の実感です。

 では、どうすればよかったのでしょうか。この患者さんも、自分を支えてくれている人たちがいましたし、(自立支援などの)社会資源も得て24時間独居をしていました。そうした生活をしていたなら、必ず希望や人への感謝・関わりをしっかり感じることがあるはずです。そういうことを感じられないとしたら、それは障害とか支援が必要とかという問題ではありません。被害女性のネット交流サービス(SNS)を拝見したら、決してネガティブな発信だけではありませんでした。明るい発信や、「人の役に立ちたい」という発信もしていました。だからこそ、この医師たちの罪深さを感じます。

 生きたい気持ちと死にたい気持ちを繰り返している人には、誰かが関わることが必要だと思います。どう関わるかは人それぞれですが、私の気に入っている言葉に、「支援はdoingばかりではなくて、beingが最高なときがしばしばある」というものがあります。doingは具体的に何をするかということ、beingはただ一緒にいることです。自分のそばにいてくれる人がいるなんて最高だと思いませんか。それは患者でも健康な人でも同じはずです。

 この事件のもう一つの大きな論点は、今後の社会に与える影響についてです。この事件をきっかけに社会の中で安楽死や尊厳死…

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毎日新聞医療プレミア編集部は、国内外の医師、研究者、ジャーナリストとのネットワークを生かし、日々の生活に役立ち、知的好奇心を刺激する医療・健康情報をお届けします。