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コロナで注目 玄米の効能

医療プレミア編集部
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玄米を使っている琉球大病院の入院食=益崎裕章教授提供
玄米を使っている琉球大病院の入院食=益崎裕章教授提供

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、運動不足やストレスによる暴飲暴食になりがちだ。そんな健康不安を背景に、ビタミンや微量元素、食物繊維を豊富にバランス良く含み、「天然の完全食」と呼ばれている玄米が市民の間で静かなブームになっているらしい。玄米の効能について長年、研究している琉球大医学部の益崎裕章教授(第2内科)に聞いた。【聞き手 くらし医療部長・田中泰義】

玄米の販売量 前年比12%増

Q 今年1~8月の玄米の販売量(米袋数換算)は前年に比べて12%増えました。消費者のニーズに応えたメーカー側の開発努力もありますが、人気の背景には何があると考えますか。

A 玄米の栄養価は古くから認識されてきましたが、「まずい」「消化が悪い」と言われ、敬遠されがちでした。しかし、健康意識の高まり、おいしく食べやすい調理方法の提案、各メーカーの新製品開発によって、その価値が再認識されるようになってきたと思います。

 琉球大病院では、2017年から玄米食を基本的な入院食として提供しています。これは、沖縄県内のメタボリックシンドロームの男性に実施した臨床試験などを踏まえ、全国の国立大病院に先駆けて導入しました。入院中の患者さんが一定の範囲で食事を選択できるシステムを整備したのに合わせて玄米を選択できるようにしたのです。導入当時、全診療科の成人の入院患者さんにアンケートしたところ、75%が玄米を選択していました。今でも白米を選ばれる方は少数派です。

 現在、新型コロナの感染が拡大しています。コロナ禍に伴い、免疫力アップなど健康への関心がさらに高まり、食材の選択は、医療関係者だけでなく市民の間でも関心事になっているように感じます。

Q 玄米の効果について教えてください。

A 沖縄県在住のメタボ男性27人に玄米か白米を8週間食べてもらった臨床試験の結果ですが、玄米を食べた人は、白米の人に比べて体重が平均3%、食後の血糖値が平均20%減るという効果が確認できました。

 玄米というのは、米ぬかである胚芽や表皮が残っている状態です。この米ぬかの中に、健康によいたくさんの成分が含まれています。白米と比較すると、例えば、マグネシウムは7倍、ビタミンB1が8倍、食物繊維が4.7倍含まれています。マグネシウムが足りないと糖尿病や肥満になりやすくなります。ビタミンB1不足は心臓機能が低下する「かっけ」になります。江戸時代の将軍は続々とかっけで亡くなったと言われていますが、白米ばかり食べていたからではないかと考えられています。ぬか(糠)はこめへんに健康の康と書きます。価値があることは、漢字からもうかがえます。

車夫のスタミナも玄米?

 こんなエピソードがあります。明治天皇の主治医を務めたドイツのベルツ先生はある日、上野から日光までの110キロを人力車で出かけました。車夫は休むことなく走り続けたそうです。大変驚いたベルツ先生は車夫に何を食べているか聞いたところ、玄米でした。ベルツ先生はある実験をします。今度は車夫に、肉など母国ドイツで一般的な食事にしてもらいました。すると、車夫は早々とばててしまったのです。ベルツ先生はこうした経緯を踏まえ、「日本人の食生活は素晴らしい」と日記に残しています。現代でも、男子プロテニスのジョコビッチ選手が玄米を重視した食生活のようです。著書で、「従来のピザなどの小麦食から玄米を取り入れるようになり圧倒的に強くなった」と記しています。

Q 「金芽ロウカット玄米」(東洋ライス)などさまざまな商品もありますが、体にいいからといって、食の好みを変えるのは難しいですね。

琉球大の益崎裕章教授=本人提供
琉球大の益崎裕章教授=本人提供

A おっしゃる通りです。玄米の研究から見えてきたのは、動物性脂肪は麻薬以上に麻薬的だということです。私たちは、スナック菓子1袋を一気に食べてしまうということがありますね。動物性脂肪を含むジャンクフードには「やみつき」にさせる特徴があります。人だけでなくマウスも同様です。

 マウスで実験したところ、動物性脂肪を食べることがやめられなくなるばかりか、動きまでぱたっと止まるんです。高カロリーのものを食べているのに動かなくなるわけですから、ますます太っていって血糖値が上がっていくんです。

 麻薬をネズミに投与する実験をしてみました。当然、前日よりもたくさんの量が与えられないと、ネズミはいらいらして我慢できなくなります。麻薬、たばこのニコチン、アルコールに依存する状態にしてから、これらの物質の摂取をやめる実験も行いました。これらの依存症は、1週間ぐらいで和らいできたのですが、動物性脂肪については、食べるのをやめてから2週間たってもずっと依存状態が続いたのです。動物性脂肪というのは、とてもやみつきになりやすい物質で、はまってしまうと、ますます食べたくなる悪循環に陥ります。周囲から注意されても、その人の脳は忠告に耳を傾けなくなってしまう状態になっているようなものです。

 動物性脂肪は、脳内の神経細胞に特別なストレスとダメージを与えていることも確認しました。このストレスは専門用語で「小胞体ストレス」と呼びます。

「食べ過ぎ」を抑えることも

Q 玄米は、動物性脂肪への依存を改善できますか。

A 可能性が十分あります。というのは、玄米を食べている人は白米派に比べ、体重や血糖値が減っただけでなく、動物性脂肪へのこだわりも薄らいでいたのです。マウスで調べたところ、玄米に含まれる「γ(ガンマ)オリザノール」が食欲中枢である脳の視床下部に集積し、動物性脂肪への好みを強める異常たんぱく質を減少させていました。さらにγオリザノールが、喜びを受け取るドーパミン受容体の働きを高めていました。簡単に言えば、玄米を食べておくと、食事による満足や喜びを受け取りやすい脳になるということです。その結果、食べ過ぎ、動物性脂肪への依存が取れていくという研究結果が出てきたのです。

Q 玄米の効果は長続きしますか。

A 口から食べたγオリザノールが、何時間くらい脳の中に存在しているのかも調べました。食後8時間くらいまでは脳に存在しているのですが、その後急速に減っていきます。人間で考えると、朝、玄米を食べると、夕方3時か4時ぐらいまでは、γオリザノールは脳に行き渡っています。しかしたまに玄米を食べるだけでは、効果は期待できません。毎日食べ続けることが大事です。

Q なぜ、玄米に関心を持たれたのですか。

A 京都大学医学部を卒業し、本格的に治療や研究活動を始めた1990年代、日本人の食生活の欧米化に伴い、肥満や糖尿病などが社会問題化しつつありました。「なぜ太るのか」という研究テーマが与えられ、肥満の原因となる「レプチン」の機能などを解明しました。その後、米ハーバード大に留学しました。「メタボリックシンドローム」という用語は、私の所属していた研究室が世界に先駆けて提案しました。

 沖縄は長い間、世界に冠たる長寿の島として知られていましたが、私が琉球大医学部に着任した09年時点で、状況は全く異なっていました。「沖縄クライシス」と呼ばれていますが、例えば、沖縄県の男性の平均寿命は、85年には都道府県別で1位でしたが、00年には26位に転落していました。女性は85~05年に1位を維持していましたが、10年には3位に転落しました。この年の男性は30位でした。

 なぜ、戦前生まれの人が元気なのか。若い世代との食生活の違いが原因だと指摘されました。戦前は、白米を主食にする人はまれだったので、私は玄米が健康改善に有効ではないかと考えました。ベルツ先生のエピソードを紹介しましたが、なぜ玄米が健康にいいのかは未解明なことが多く、研究を始めたのです。

 17年、ヨーロッパ糖尿病学会の医学誌「Diabetologia」の巻頭特集に私たちの研究が紹介されました。そして、編集長は「極東の日本という国には、ヨーロッパ、アメリカ、中南米、中東の人が大変困っている糖尿病や肥満を、食べ物で解決するという文化や伝統がある。これを世界に生かせば、ずいぶん地球規模で貢献ができるんじゃないか」とコメントしていました。

 玄米をはじめとする日本の伝統的食、和食文化は、世界に貢献できる財産です。コロナによるストレスでつい動物性脂肪に手を伸ばしている人も多いと聞きます。ストレスの要因はさまざまです。これからも研究を進め、人々の健康に貢献していきたいと思います。

ますざき・ひろあき 京都市生まれ。1989年京都大医学部卒。京都大医学部助手、米ハーバード大医学部客員助教授、京都大医学部講師を経て、2009年に琉球大医学部教授に就任。14年、琉球大医学部付属病院副病院長・栄養管理部長・総合診療センター長。15年、琉球大医学部副医学部長。

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