地域で暮らし続ける~日本とデンマークの現場から

「昔を思い出す」認知症の非薬物療法とは

銭本隆行・日本医療大学認知症研究所研究員
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1997年に開設されたデンマーク・コペンハーゲンの回想法センター。壁には昔の調理道具がかかっている=筆者提供
1997年に開設されたデンマーク・コペンハーゲンの回想法センター。壁には昔の調理道具がかかっている=筆者提供

 「昔は炊飯ジャーなんてなかったから、朝に家族の1日分で1升炊いてたのよ。夜は冷や飯なので、おみそ汁をぶっかけて食べたわ」。それまで黙っていた90代の女性が、みんなが昔の食事について話していたところ、突然、幼いころの家族の食事風景を懐かしげに話してくれました。

 これは非薬物療法の回想法を行っているときの一場面です。必ずしも症状を改善することにはなりませんが、いまのそのときを穏やかに過ごせることが認知症の人にはとても大事なことなのです。

 さて、前回は認知症の非薬物療法について、概要を紹介しました。しかし、具体的にどんな治療法があるかはお伝えしていませんでした。主なものでは以下のようなものがあります。

・運動系:ウオーキングや体操などの有酸素運動

・認知系:回想法、リアリティーオリエンテーション(RO)、脳トレ

・音楽系:音楽療法(聴く、歌う、弾くetc.)

・その他:園芸療法、ペット療法、芸術療法、アロマセラピー

 運動療法は、認知症の非薬物療法の中で有効性がほぼ確立しているものです。ウオーキングなどの有酸素運動がいいとされています。体の健康が脳にいい影響を与えるというのはみなさんもお分かりだと思います。

 音楽療法は、一般的なものでは、対象者の特性や体調を考慮して長くても60分以内です。プログラムの内容は、治療目的や対象者の特徴に合わせて、音楽療法士が選択して行います。伴奏に合わせて歌ったり、手拍子を打ったり、体操をしたりします。ただ単に歌を歌うというのではないのです。効果として、妨害的行動などに改善効果があり、不安や抑うつといった感情面での改善も認められています。また、研究によっては認知機能の改善にも有効であるという報告もなされています。

 ある小規模多機能事業所では毎週、音楽療法士に来てもらって、キーボードの演奏とともに利用者が音楽を楽しんでいます。事業所の管理者は「音楽は心を豊かにし、利用者の顔が穏やかになって、ゆっくりと過ごしてもらえる効果を感じます」と話しています。

 ROとは、「今日は何月何日?」「今何時?」「今どこにいる?」などの問いかけを通して、見当識、つまり今の時間や場所などの修正をする…

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銭本隆行

日本医療大学認知症研究所研究員

ぜにもと・たかゆき 1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。  2015年末に日本に帰国し、2016年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムに関する修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わる。現在は札幌市の日本医療大学認知症研究所と名古屋市の日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍しながら地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。ノーマライゼーション理念の提唱者であるデンマーク人の故N.E.バンクミケルセンにちなむN.E.バンクミケルセン記念財団理事も務める。