実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 診療する医療機関の公表を

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
  • 文字
  • 印刷
 
 

 2020年4月に公開したコラム「新型コロナ 過剰な検査制限『「高熱10日でもダメ』」では、発熱とせきが続いた女性が保健所から検査を拒否され、複数の診療所から診察を拒否され続けた事例を紹介しました。この女性は、私が院長を務める太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にたどり着いたときにはかなり苦しそうでした。私は直ちに検査・治療が必要と判断しましたが、私から保健所に直接交渉しても拒否されました。「不明熱」(原因不明の発熱)という名目で大きな病院に紹介した後、女性はようやく検査を受けられ、結果はやはり新型コロナウイルス陽性でした。

 その事例を経験してから7カ月以上たちました。現在は保健所を通さなくても診療所で検査(PCR検査及び抗原検査)することが認められ(なぜ、これほど長い間認めてもらえなかったのか、私は今も疑問に思っています)、谷口医院でも新型コロナが疑われた事例には積極的に検査を実施しています。住所が遠い人から電話やメールで相談を受けたときは、谷口医院からその地域の保健所に電話で交渉しています。現在は保健所も引き受けてくれることが多くなり、検査が受けられない事態は減少しています。しかし皆無ではありません。最近の事例を紹介しましょう(ただしプライバシー保護の観点からいつものように詳細をアレンジしています)。

発熱したが診療してもらえない

 患者さんは60代後半の女性で、大阪府内に在住。谷口医院からは高速道路を使っても1時間以上かかる距離です。2日前から発熱、頭痛、倦怠(けんたい)感が続いているものの、自宅近くのクリニック数軒に問い合わせると、いずれも「発熱患者は診られない」と断られたそうです。この方は、数年前にあることで谷口医院を受診したのを思い出し、相談の電話をしてきました。

 電話がかかってきたのは夕方の5時前でした。発熱があれば公共交通機関を利用できず車で来なければなりません。しかし「夜は運転が怖い」と言い(当然ながら、発熱した状態で長時間の運転は危険です)、1人暮らしで運転してくれる身内もいないと言います。そもそも高熱と倦怠感を抱えて遠方から受診することに無理があります。そこで、谷口医院がこの女性の住む地域の保健所に交渉することにしました。

保健所も「患者に電話できない」

 ところが、なんと保健所は「規則上、患者さんに電話できない」と言います。その地域では「まず患者さん自身が、どこか近くの診療所を訪れて、そこで検体(唾液)を採取する容器を受け取り、(患者さん自身ではなく)その家族が、その地域の拠点となる大きな病院に、患者さんの唾液を入れた容器を届けるシステムになっている」というのです。ですが、実際にこの女性は複数の医療機関から受診を断られているわけで、容器を受け取れる見通しはありません。大きな病院に容器を届けてくれる家族もいません。女性にどうしろというのでしょう。

 
 

 保健所というところは得てして融通が利きません。こういう状況で正論をぶつけても時間がむなしく過ぎるだけです。そこで「手」を変え、その「拠点となる大きな病院」に、直接電話することにしました。

 ところが、この病院でも「直接患者さんが来ても新型コロナの検査ができない」と言われ、保健所で聞いたのと同じ説明をされました。すでに複数の診療所から拒否され保健所からも断られていますからこの病院が最後のとりでです。女性がこの病院を受診できなければ、女性の年齢を考えると「最悪の事態」も想定せねばならなくなります。

 そこで、冒頭で述べた4月の事例と同じ“奇策”で攻めることにしました。つまり「不明熱」という名目で受け入れてもらえるよう交渉するのです。

「原因不明の発熱」で大きな病院に紹介

 私はまず、この女性の状況を記した紹介状(診療情報提供書)を書き、この病院の「地域連携室」(診療所など地域の医療機関が連絡する窓口)にファクスで送りました。もしも拒否されれば、私が電話で直接この病院の医師にかけあうことになります。強い剣幕で抗議すべきか、泣き落としの方が効果的か……。そんなことを考えていると同院から「受け入れる」との返事が届きました。数日後、改めて同院から連絡が来て「新型コロナウイルス陽性」とのことでした。

 60代の患者さんが新型コロナの可能性がある病状で苦しんでいるのに受診できるところがない、というのは明らかに「異常」です。病状悪化が心配なのはもちろんですし、入院やホテル・自宅療養など必要な措置がなければ、感染が周囲に広がる可能性が高まります。

どこに行けば診てもらえるのか

 ではこの「異常」はこの地域だけなのでしょうか。この女性によれば、近くの診療所からはすべて断られ、他に電話できるところが(遠方の当院以外に)なかったと言います。※編集部注1

 現在、新型コロナウイルスの検査を実施する医療機関が増えてきていますが(それでもまだまだ足りないことが報じられています)、問題なのは「どこの医療機関で実施しているかが分からない」ことです。

 日本経済新聞が11月5~11日に実施した調査によれば、47都道府県中、検査ができる医療機関を「原則公表」としているのは高知県と埼玉県だけです。※編集部注2

 「一部公表」と回答したのが愛知県、福岡県など9県で、大阪府と青森県が「未定」、残り34県が「非公表」です。ちなみに、谷口医院は大阪府からの質問に対し「検査は当院をかかりつけ医にしている人のみ実施する」と回答し「公表してもらってOK」と答えています。

 ネット交流サービス(SNS)がこれだけ普及している時代、「非公表」にしてもそのうち、検査を実施している医療機関は分かるでしょう。ただし、SNSで広がる情報は正確なものばかりとは限りません。悪意があったとしてもなかったとしても間違った情報やデマが広がることを覚悟しなければなりません。すると、検査や診療を引き受ける医療機関のうち一部だけに検査希望者が殺到したり、風評被害が広がったりする可能性もでてきます。

 このようなことを避けるために「すべて公表すべきだ」というのが私の考えなのですが、興味深いことに、調査した日経新聞によると、各自治体は私が懸念しているまさにその二つの理由「一部の医療機関へ殺到」「風評被害」を理由に非公表にしているというのです。

 そもそも人は「非公表」などと言われるとかえって知りたくなるものですし、「非公表」が人々の恐れや不安を助長し、それらがあらぬうわさやデマを生み出すことになります。

「日ごろみている患者」の検査を

 一番いいのは、すべての内科系の診療所が、日ごろ診ている人の検査を自院で担うことです。何らかの事情で検査ができない診療所があるのなら、実施している診療所を公表すればいいのです(あるいは「実施しない診療所」を公表するのです)。これで、かかりつけ医を持っている人が行き場をなくすことは避けられます。

 
 

 かかりつけ医を持っていない人は、自身の判断で医療機関を受診するのではなく、まず保健所に電話して保健所が指定する医療機関を受診するシステムにすればいいのです。これで一部の医療機関に殺到する事態が防げます。

 風評被害については放っておくしかないでしょう。大阪市立十三市民病院が新型コロナ指定病院になったとき、一部の地域住民から「コロナをまき散らすから病院の窓を開けるな」と抗議があったそうです。おそらくこういう人たちとは冷静な話し合いができません。ちなみに、谷口医院では6月からPCR検査及び抗原検査をしていますが、一度もそのような苦情は来ていません。もしも苦情がきても無視するだけですが。

「診てもらえる」医療機関の確保を

 新型コロナの患者を診療する医療機関に嫌がらせをしたり、迷惑施設扱いをしたりする人たちは「自分は新型コロナにかからない」と思っているのかもしれません。しかし、現在の世界の感染状況をみれば、いくら注意しても感染の可能性をゼロにはできません。ならば、もしも感染したときに自分や家族が診てもらえる医療機関を探しておくのが賢い選択です。嫌がらせをする人もしない人も、かかりつけ医を持っているのであれば、いざというときにその医療機関で診てもらえるかどうかをあらかじめ確認しておくのがいいでしょう。

 かかりつけ医を持っていない人は、症状が出た場合は保健所に相談するしかないわけですが、過去のコラム「新型コロナ 発熱を診てもらえない時代の生き方」で述べたように、元気なうちにかかりつけ医を探しておくことを勧めます。苦しくなってから複数の医療機関で断られ、つらい思いをすることがないように。

※編集部注1 編集部は、この事例のように「症状があるが、診療や検査を受けられずに困っている患者」への対応について、大阪府感染症対策課に聞きました。答えは「まず近くの医療機関に診てもらうのが原則だが、それができない場合は、保健所内の受診相談センターが相談を受け、新型コロナを診療している帰国者・接触者外来につなぐ」でした。また「そもそも府内の全医療機関に対し『発熱患者を診療できない場合は、単に断るのではなく、診療できる医療機関を紹介してほしい』という依頼を、11月17日付で送り、さらに『診療できる医療機関』のリストも送ってある」ということでした。同課ははっきり言いませんでしたが、この事例は府の方針に反していたわけです。

※編集部注2 高知県は9月1日から、「新型コロナウイルス感染症検査協力医療機関」のリストをネットで公開しています。県によると公表の目的は、県民に自宅近くで安心して受診してもらうこと。公表によって、特にトラブルなどは起きていないとのことでした。また、埼玉県は、医療機関の公表を準備中で、12月1日に公表予定だそうです。目的は「県民に迷いなく受診してもらうこと」。ネットでの公表を前提に、協力してくれる医療機関を募ったそうです。

 写真はゲッティ<医療プレミア・トップページはこちら

谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。