実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 安心して飛行機に乗りたい

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 今回は個人的な話から始めます。去る11月22~23日、わずか1泊2日ではありますが連休を利用して私の家族は沖縄旅行を計画していました。この時期に医療者が旅行などけしからん、という声があるのを承知で決行を決めたのは、膵臓(すいぞう)がん術後の義父に沖縄の自然を味わってほしかったからです。義父はステージ4b(がんが全身に転移し最も進行した状態)を宣告されながら奇跡的に手術を受けることができたものの、いつ再発しないとも限りません。再発すれば再度の手術は難しく、死へのカウントダウンが始まることになります。そこで、義父、義母、私の妻と私で、いわば「義父にとって最後になるかもしれない旅行」を計画したのです。

「行けるうちに」と計画した旅行を断念

 新型コロナウイルスに対するワクチンが開発されるまで、あるいは流行がもう少しおさまるまで待てないのか、という意見もあるでしょうが、それは健康で若い人だから言えることです。義父のように高齢でなおかつ持病を抱える者にはそう長くない「期限」があるのです。「若者は街に出てもかまわないが高齢者や持病のある者は自粛を」という意見は公衆衛生学的には正しいと思いますが、この考えは、自粛を要請された人の余命、そして生きがいを軽視していないでしょうか。

 けれども、最終的には旅行を断念せざるを得なくなりました。感染者が増加しても決行するつもりで旅行の準備を始めようとした出発前日(21日)の朝、旅行先の情報を確認しようと沖縄タイムスのサイトを見ると「3連休、移動自粛求めず 大阪、佐賀除く45都道府県」という記事が目に留まったのです。記事によれば、大阪府と佐賀県は都道府県をまたぐ移動を自粛するよう住民に要請したとのこと。慌てて大阪府のサイトを確認すると、大阪モデルの「イエローステージ(警戒)」に基づき11月21日から12月5日まで「重症化リスクの高い方(高齢者、基礎疾患のある方等)は、不要不急の外出を控えること」と書かれていました。

 罰則はないでしょうが、大阪府が期間限定で「基礎疾患があれば不要不急の外出を控えること」と勧告しているわけです。「沖縄への家族旅行は不要不急ではない」と主張するのは無理があるでしょう。また、沖縄側からは「都道府県をまたぐ移動を自粛せねばならない大阪府民がなぜ来るんだ」と思われるかもしれません。結局、前日に旅行をキャンセルしました。しかし航空会社は全額返金のキャンセルを認めてくれませんでした(この話は後述します)。

 私の義父のような立場の者、すなわち「余命は長くない。元気なうちにもう一度〇〇を訪れたい」と考えている人は大勢いると思います。また、私が院長を務める太融寺町谷口医院の患者さんのなかには「実家の家族の死期が近づいているが、コロナのせいで帰省しにくい」と言う人が何人もいます。

3密を避ける旅行なら

 ここで本質的な問題「旅行は新型コロナウイルスのリスクか」を考えてみたいと思います。新型コロナの最大のリスクは「3密」、すなわち「密集・密接・密閉」です。ということは、これらを避ける旅行であれば大きなリスクを負うことにはならず、むしろ自粛生活で生まれたストレスを解消するのに旅行はうってつけとも言えるわけです。

 そして、このことは過去のコラム「新型コロナ この夏にレジャーを楽しむ方法」で述べました。そのとき紹介したように、海や山など自然と触れることを目的とした旅行であれば“現地では”感染のリスクはほとんどありません。実は、私は10代の頃から沖縄が大好きで去年までは年に何度か訪れていました(いつも1泊2日ですが)。11月は沖縄の自然を最も楽しめる季節だと思っています。

 食事については、もしもホテル内のレストランが「密」であれば、部屋でとるという方法もあります。そのため今回の沖縄旅行ではキッチンもある広い部屋を予約していました(結局キャンセル料を払うことになりましたが……)。

飛行機内での感染リスクは

 旅行のリスクは「移動中」にあり、沖縄の場合は「飛行機」です。この点は先述の過去のコラムでも述べた通りですが、ここで改めて「飛行機のリスク」について考えてみましょう。

 過去のコラム「新型コロナ 『3密』を楽しめる日は」では、エアカナダの便でフライトアテンダントやパイロットなど同社のスタッフ合計7人が感染した事例を紹介しました。また、米疾病対策センター(CDC)は「長距離フライトの新型コロナウイルス感染」というタイトルの報告を公表しています。2020年3月、ロンドンからハノイへの直行便に搭乗した217人の乗客と乗組員が調査され陽性者は16人でした。ビジネスクラスに搭乗した1人の有症状者が、ビジネスクラスの他の乗客少なくとも12人に感染させたとみられています。

 機内での感染の報告は日本にもあり、国立感染症研究所のサイトで紹介されています。3月23日、関西から那覇への便に搭乗していた乗客が感染していたことが分かり、その便の乗客者141人のうち122人に連絡がとれ、合計14人が感染していました。飛行時間が2時間という短時間でもクラスターが発生することを示したこの報告は大変興味深いと言えます。

飲食を控えマスクを着けて

 CDCが報告したベトナムの感染は、マスク着用が徹底されていなかったことが指摘されています。そしてビジネスクラスでの感染が多かったのです。

 ビジネスクラスでは、せきなどの症状があり、搭乗前から感染していたとみられる女性が、窓際の席に座っていました。そして他の感染者のうち11人の座席は、この女性の席の近く(隣の隣の列まで)でした。このためCDCは、この女性から他の乗客に感染が広がったとみています。

 そして私は、感染が広がったのは飲食の際だったと推測しています。機内では、10時間の飛行中に食事が2回出たそうです。

 
 

 ビジネスクラスではアルコールも無料で供給されますしデザートも豪華です。ということは、まず食事の時間が長くなります。さらに、アルコールが入ったことに加え、同行者との距離が(エコノミーの座席よりも)ありますから、会話は大きな声になってしまうことが予想されます。そして飛沫(ひまつ)感染のリスクが高くなるのです。

 一方、沖縄行きのクラスターでは、感染発覚が最初に分かった乗客は普通席でした。特筆すべきは、搭乗中に激しいせきをしていたにもかかわらずマスクをしていなかったことです。

 これらから、「搭乗中の飲食は控える」「マスク着用」が感染予防にいかに重要かが分かります。

 ところで、ここで紹介した三つの機内の事例、カナダ、ベトナム、沖縄はすべて3月に起こったものです(カナダの事例は感染の日は特定できませんが、事例を紹介したThe Guardianの記事は4月2日です)。現在は世界の航空会社は機内感染を防ぐために「マスク着用」以外に何か策をとっているのでしょうか。

 最近国内線のある便に乗ったとき、紙パックのジュースが配られました。もちろん私は飲みませんでしたが、他の乗客に飲まないことを強要するわけにはいきません。心の中で「みなさん、どうか飲むのは降りてからにしてください」と願うことしかできませんでした。配られるから飲みたくなるわけで、飛行時間が短い場合は初めから「飲み物はできるだけ飲まないでください。どうしても飲みたい人は申し出てください」と案内すべきではないでしょうか。機内で飲み物を飲むための隔離されたブースをつくれば済む話だと思います。

 
 

 機内では「換気を行っています」と繰り返しアナウンスされますが、効果は検証されているのでしょうか。過去のコラム「新型コロナ 『発熱でも出勤要請』『陰性でも自粛』」で紹介した女性は、ある便に搭乗した数日後に突然保健所から電話がかかってきて「あなたの近くに座っていた人がコロナ陽性でした。あなたも検査を受けてください。結果にかかわらず2週間は外出できません」と言われたのです。女性によれば付近に座っていた乗客は誰ひとりマスクを外さず飲食もしていなかったそうです。これで検査・自粛が(ほぼ)強制されるならその“換気”に意味があるのでしょうか。

機内の感染対策強化を

 航空会社に言いたいことがあります。「換気はしていますが、あなたの近くに座っている人の感染がわかった場合は検査と2週間の外出自粛が強いられます」と事前にきちんと案内するか、あるいは、搭乗者数を減らしたり、換気の効果を検証したりして、たとえ感染者が搭乗していても、他の人への感染のリスクをゼロにできるような対策をとるか、いずれかにしてほしいと思います。

 私の家族旅行の全額返金のキャンセルを認めてくれなかった航空会社には、「キャンセルの代わりに」と勧められた「搭乗日変更」の手続きをしました。自分勝手な意見であることを承知で言えば、その時までに「たとえ感染者が同乗していても他の人に感染しない対策」を望みます。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。