今、日本人女性に一番多いがんは、乳がんです。国内で増加ペースが最も速いがんの一つで、2020年の予測値では、全国で年間約9万2300人の診断が見込まれています。

日本人女性の「9人に1人」

 日本の女性の9人に1人がこのがんに罹患(りかん)する計算です。19年の死亡数は1万5000人近くで、1980年の3.6倍にもなります。

 がんは細胞の老化と言っていい病気ですから、高齢化が進んだ日本では必然的に発症が増えます。例えば、人口10万人あたりの大腸がん罹患数は日本では116人ですが、若年者が多い米国では42人と大きな開きがあります。しかし、乳がんについては日米とも80人程度と拮抗(きっこう)しています。他のがんと違って、乳がんでは高齢化以外の要因が大きく関与しているからです。

 乳がん細胞を増殖させる最も重要な要因は、女性ホルモンの存在です。簡単に言えば、生理がある期間は乳がんのリスクが高くなります。50歳前後で閉経を迎えると、女性ホルモンの分泌量は急激に減りますから、リスクも少なくなります。40代後半に乳がんのピークがあるのはこのためです。

 日本人の栄養状態が良くなって、初潮の開始年齢が早まり、閉経も遅くなっているため、生理のある期間が長くなっていることも乳がんの発症リスクを高めています。さらに、急速に進む出生率の低下は、乳がんを決定的に増やします。妊娠、出産、授乳のある2年以上の間は生理が止まり、乳が…

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中川 恵一

東大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2021年4月から同大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。同病院放射線治療部門長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。