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新型コロナ 大阪の「密」と検査不足と差別

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
大阪府の独自基準「大阪モデル」が「赤信号」となり、赤色にライトアップされた通天閣で、涙目になった府公式マスコットの「もずやん」=大阪市浪速区で2020年12月3日午後8時15分、本社ヘリから山田尚弘撮影
大阪府の独自基準「大阪モデル」が「赤信号」となり、赤色にライトアップされた通天閣で、涙目になった府公式マスコットの「もずやん」=大阪市浪速区で2020年12月3日午後8時15分、本社ヘリから山田尚弘撮影

 大阪府の吉村洋文知事は12月3日、新型コロナウイルスの感染状況を判断する府の独自基準「大阪モデル」で、非常事態を呼び掛ける「赤信号」を点灯すると表明しました。そして府民に「不要不急の外出自粛」を要請しています。実際、現在大阪府では新たな感染者数が連日300人を超え、重症患者のための病床も埋まりつつあります。ときどき誤解があるので少し説明を加えておくと、重症病床というのは重症化した人全員が入ることができる病床ではありません。年齢やその人の状況から、救命すべきだと判断されたケースだけが重症病床に入院できるのです。実際には文字通りの重症なのに重症病床に入ることができず他界されている高齢者施設の入居者や療養型病院の入院患者もいるのです。では他府県に比べて大阪府の状況が逼迫(ひっぱく)する理由はどこにあるのでしょう。今回は私見をふんだんに交えてその理由を述べていきたいと思います。

「密」になっている飲食店

 一つ目の理由が「特に飲食店でソーシャルディスタンス(社会的距離の確保)が守られておらず、“密”の状況が少なくない」ということです。

 私が院長を務める太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)は、大阪市北区の、繁華街とオフィス街が合わさったようなところに位置しており、周囲には飲食店も多数あります。私の仕事が終わるのは早くて午後9時、遅ければ10時を回りますから、週のうち半分以上の夕食が外食もしくはテークアウトとなります。

 3月以降は「密」を避けるために、それまで頻繁に通っていた食堂やレストランに入るのをちゅうちょするようになりました。私が考える飲食店の理想は、「HEPAフィルター(高性能空気フィルター)を用いた換気をしている」「別のグループとの距離が確保されている」「音楽やテレビの音が大きくない(大きいと客の声が大きくなるから)」「大声で話すような雰囲気の店ではない」「可能なら外のテーブルで食事ができる」といったところなのですが、これらをすべて満たしている店となるとそう多くはありません。小さな店でも外にテーブルを出してくれているか、入り口付近の席に座ることができてドアが開いているような場合は安全だと思いますが、寒くなるとこういう方法が使えなくなります。

 私の「理想」が厳しすぎるという指摘はあるかもしれませんが、この私の理想から大きく隔たった店が少なくないのは事実です。例えば、窓がなく、一つしかない入り口は閉め切っており、どのような換気をしているかがよく分からず(「HEPAフィルターで換気してますか?」などとは聞きにくいものです)、グループ同士の距離が近く、さらに客が大きな声で話しているような店です。

 もちろん、そういった店で実際に感染が起こっていることを確認したわけではありません。ですが、谷口医院で新型コロナウイルス感染が発覚した患者さんたちの例でいえば、「おそらく飲食店で感染しただろう」というケースが最多なのです。

 店側としても設備投資は大変でしょうし、あまり感染予防に過敏になり過ぎるのもまた問題だとは思いますし、そもそも大阪の飲食店と他府県の飲食店でそんなに差はないとは思うのですが、飲食店でのソーシャルディスタンスが順守されていないことが、現在大阪で感染者が増加の一途をたどる一因ではないか、と私はみています。

検査を希望しても受けられない

 感染者が増加する二つ目の理由は「希望しても検査ができない」ことです。

 これはこの連載で繰り返し取り上げている問題ですが、今も解消されていません。たしかに1日あたりの検査能力は、全体では増えてきているとは思いますが、まだまだ需要に追いついていません。

 「熱が出た」とか「感染者と接触した」などの理由で検査を希望する人が、実際にはなかなか受けられないとなれば、希望者の一部にいるはずの感染者を確認できません。その感染者たちに、病院やホテルなど隔離された場所で療養してもらうこともできません。すると、その人たちから感染が広まることが考えられます。問題は、感染者本人にあるのではなく、十分な検査体制を確保できていないことにあるのです。

 
 

 谷口医院ではここ2~3週間、「新型コロナの検査希望」という問い合わせが急増しています。ですが、谷口医院で検査ができるのは「谷口医院をかかりつけ医にしている人で、新型コロナウイルス感染を疑う症状がある場合」となり「発熱外来」に来てもらわねばなりません。「発熱外来」は他の患者さん全員に帰ってもらってからでないと始められませんから、そう多くは診られないのです。

 一方で、検査を受けるべき場合は「新型コロナウイルス感染を示唆する症状がある時」だけではありません。感染した人との「濃厚接触」の可能性があるときにも検討すべきです。ただし、谷口医院を含む医療機関は、患者さんに濃厚接触があったかどうかを判定する権限がありません。また、たとえ明らかな濃厚接触があったとしても、無症状であれば保険診療で検査をすることは認められていません。この場合は保健所の管轄となります。

 ですが、保健所も毎日大量の問い合わせを受けていますから、すべてに適切に対応するのは困難です。例えば、ある患者さんは陽性者と接したことが分かり、保健所に問い合わせました。すると「検討する。濃厚接触だと認定されれば連絡する」と言われ、数日間待ったものの何の音沙汰もなかったそうです。この間の不安な気持ちは相当なものだったでしょう。その後、発熱して結局、谷口医院を受診されました。私はこの患者さんについて「新型コロナを疑うには少し症状が軽すぎる」と考えたのですが、軽症例も少なくないことも踏まえて検査を(患者さんの負担なしで)行いました。結果は陰性でよかったのですが、おそらく似たような事例はかなり多くあるでしょう。保健所が判断するまでの期間に他人にうつす可能性もあるでしょうし、濃厚接触かどうかの判定を電話の聞き取りだけで完璧にはできません。

 個人的には「濃厚接触の可能性がある」ことが分かったその時点で、誰もが検査を無料で受けられるようにすべきだと思っています。

差別を恐れて検査を拒否

 感染が増加する三つ目の理由は「検査拒否」です。先ほどの患者さんは「自分が感染しているなら過去数日間で接した人全員に伝えなくては」という責任感から検査を強く望んでいました。ですが、「もし感染していたら会社の同僚(あるいは学校の友達)から感染者のレッテルを貼られ差別の対象となるのではないか。今は無症状だし黙っておこう」と考える人もいると私は思っています。

 この連載で何度か取り上げたように、私が新型コロナウイルス感染症の可能性があると判断し、検査を勧めても拒否する人がいます。最近はそういう人が減ってきていますが、これは検査を拒否する人の数が減ったのではなく、以前は、検査はクリニックではできないことを初めから分かっていて「仮に保健所での検査を勧められても断ればいい」と考えていた人が受診していたからだと思います。ところが、現在はクリニックでも保険と公費で(つまり検査代は無料で)その場で受けることができますから、検査が嫌な人は「勧められれば簡単には断れない」と考えて最初から受診しなくなったのではないか、と私はみています。

 
 

 では、新型コロナを疑う症状があっても検査をちゅうちょする人は、どれくらいの割合を占めるのでしょうか。年齢によっても、その時の症状の強さによっても変わるでしょうが、20~30代であれば1~2割くらいの人は「自然治癒に期待して検査を拒否しよう」と考えるのではないかという印象があります。そして、これは症状があった場合です。まったくの無症状で「濃厚接触の可能性がある」という場合なら、「検査は避けたい」と考える人はもっと増えると思います。

悪いのは差別する人

 では、感染している可能性があることが分かっていて検査を拒否するのは許されないのでしょうか。過去にも述べたように、検査拒否がいいか悪いかではなく、なぜ検査拒否する人がいるのかを考えねばなりません。そして、その最大の理由は「差別」です。「陽性者に対する差別があるから検査拒否という問題が起こる」と私は言い続けています。つまり、悪いのは検査拒否する人ではなく、差別をする人なのです。

 まとめましょう。現在増加し続ける感染者を減らすには「特に飲食店での『密』を避ける」「検査をさらに拡充する」「感染者を差別しないことで検査拒否を減らす」。この三つが重要だというのが私の考えです。

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。