医療プレミア特集

「コロナワクチン」 キーマンに聞く

医療プレミア編集部
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 米製薬大手ファイザーが開発した新型コロナウイルスの予防ワクチンが英国で承認されるなど、欧米メーカー発のワクチンが実用化段階までこぎ着けた。新たなワクチン開発は通常5~10年かかるとされるが、今回は1年足らずという異例のスピードで接種が始まる。パンデミック(世界的大流行)収束の鍵として期待が高まる。

 一方、国産ワクチンの開発に向けた動きは欧米メーカーと比べて「周回遅れ」とも言われる。私たちが国産ワクチンを打てない状況にあるのはなぜか。国家を揺るがす感染症の脅威を目の当たりにした日本は、今後いかなる道を取るべきか。最前線を知る塩野義製薬・手代木功社長と、武田俊彦・元厚生労働省医政局長にじっくり聞いた。【くらし医療部・横田愛】

反応するかは一定以上の時間が必要

塩野義製薬・手代木功社長

 ――新型コロナウイルスの海外製ワクチンが実用化される見通しです。開発の現状をどう見ていますか。

 ◆欧米では今のところ「メッセンジャー(m)RNAワクチン」と「ウイルスベクターワクチン」の開発が先行している。これら二つの製法は、元々は感染症向けに開発された技術ではなく、がんや中枢神経系の疾病の治療を念頭に開発されてきたものだ。

 本来的に言えば、ワクチンの開発を1年でやるほうに無理がある。ワクチンは、投与した化合物に人間の免疫システムが反応して効果を及ぼすもので、どう反応するかを見るには一定以上の時間が必要だ。インフルエンザワクチンも10年、20年にとどまらない、本当に長い時間をかけて現在の姿になっている。

別の製法で「安心感」

 ――塩野義製薬は、遺伝子組み換えの技術を使ってウイルスのたんぱく質(抗原)を作製し投与する「組み換えたんぱくワクチン」という製法で新型コロナのワクチン開発を進めています。

 ◆組み換えたんぱくワクチンは、季節性インフルエンザワクチンとして少なくとも米国で実用化されている製法で、技術として確立されている。投与後に生体がどう反応するかはインフルエンザで実績がある。開発が先行する二つの製法と違う形で安心感を出せるのではないかと思う。

 「アストラゼネカもファイザーもジョンソン・エンド・ジョンソンも、ここまで進んでいるのだから今更(塩野義が開発しなくても)いいのではないか」という声も相当頂いた。我々がやっていることが無駄になることもあるかもしれないが、注射部位の痛さや、発熱、下痢など、副反応があった場合に日本人は受容できるだろうかと感じている。

 私どもは、新型コロナが収束しワクチンのニーズがそこまでなかったとしても、元々組み換えたんぱくのインフルエンザワクチンを作ろうと考えていたので、工場などへの投資を無駄にはしない。

 ――塩野義は長く、感染症分野を経営の柱の一つとしてきましたが、ワクチン開発への参入は今回が初めてです。新規参入の狙いについて聞かせてください。

 ◆中期経営計画(今年6月に発表)を議論する中で、治療薬の開発だけでなく、予防、診断、重症化抑制を含めた「トータルケア」の観点で、予防分野のワクチン事業へ領域を拡大させることも必要だと考えた。

 2017年に創薬ベンチャーのUMNファーマ(秋田市)がアステラス製薬と組んで進めていたインフルエンザワクチンの開発の中止が発表され、両社が提携を解消した。UMNは日本発のベンチャーであり、何とか救いたいという思いがあって、我々として話を聞くことになった。

 日本のインフルエンザワクチンはすべて、ウイルスを鶏卵培養し毒性をなくして投与する「不活化ワクチン」だ。当時の話をアステラス製薬にも伺ったが「卵で増殖しないウイルスが出たらどうするのか」と非常に良い問題意識を持っておられた。

 鶏卵培養ではない組み換えたんぱくワクチンの技術を日本も持つことは、リスク回避にもなると考えた。まずUMNと資本業務提携を結び、新しい昆虫細胞系(昆虫の細胞を使い、ウイルスのたんぱく質<抗原>を培養する方法)の構築に取り組んでもらった。2年たち、要求するレベルの細胞系ができたので、完全子会社化してもう一度インフルエンザワクチンに挑戦しようとしたところに、新型コロナの流行が発生した。3月以降は新型コロナ対応に切り替えて、一本道で走ってきた。

「注射以外のワクチン」で世界に貢献

 ――ワクチンは新規参入が難しい分野とされますが、参入の壁を感じることはありますか。

 ◆今回の新型コロナがまさに「卵(鶏卵培養)で増えないウイルス」で、わが国のワクチン供給体制がいかに脆弱(ぜいじゃく)か、期せずして明確になったと考える。

 世界に目を向けると、過去何十年にわたり世界4大メーカ…

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