実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ 飲食店にとってほしい五つの対策

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 過去のコラム「新型コロナ 安心して飛行機に乗りたい」で、国際線のビジネスクラスでクラスター(感染者集団)が生じたのは飲食に原因があるのではないか、という私見を述べました。前回は、大阪で感染の勢いが止まらない理由のひとつは飲食店ではないか、という仮説を紹介しました。私がこのような考えをもつ最大の理由は、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で新型コロナウイルス感染が判明した人の大半は飲食店で感染したのではないか、と推測できるからです。このようなことを言うと飲食店への営業妨害ととらえられかねませんが、それでも私は、今、飲食店は生き残れるかどうかの瀬戸際にいると思っています。そこで今回は、飲食店での新型コロナウイルス感染を減らすための「五つの対策」を提案したいと思います。

 過去にも述べましたが、我々はもう以前のように「3密」を楽しめる世界には戻れません。たとえワクチンや治療薬ができたとしても、です。100%安全で有効なワクチンはまず誕生しませんし、どんな薬でも全員に使えるわけではないのですから。

外食は「感染のリスク因子」

 実際、(飲食店を非難することにつながるからなのか)あまり大っぴらに主張する人はいませんが、大勢の人が薄々ながら飲食店の危険性に気付いているはずです。例えば、滋賀県の三日月大造知事は「大阪府をはじめ、感染が拡大している地域に出かけての会食、接待を伴う飲食は当面の間、控えてほしい」と県民に呼び掛けました。飲食店一般の利用に関する警告ではありませんが「条件によってはリスクがある」と呼びかけたわけです。米疾病対策センター(CDC)は「その場での飲食を提供するところに行くなど、マスクの使用や社会的距離の確保が難しくなる行動や状況が、新型コロナ感染の重要なリスク因子になっている可能性がある」と2020年9月の週報で報告しています。

 前回のコラムで述べたように、私自身もそれまで足しげく通っていた飲食店の大半を、3月以降は利用していません。いくつかの飲食店には、入り口までは行ってみたものの感染予防対策が不十分だと判断してそのまま引き返しました。その結果、安心して入れる店がほとんどなくなってしまいました。

いっしょに食事をするのは大切

 誤解のないように言っておくと、私は飲食店をつぶしたいわけではありません。谷口医院の患者さんの中にも飲食店の店長やオーナー、従業員、アルバイトの人たちはたくさんいます。私が診ている患者さんが路頭に迷うようなことになってほしくありません。

 そもそも他人と一緒に食事をすることは、人間にとってとても大切なことです。私自身を例にとって言えば、「人生で大切なことの7割くらいは居酒屋で学んだ」と自負しています。文字通り、膝を突き合わせ、グラスを重ね、ときには口角泡を飛ばしながらいろんな人と語り合ったことでどれだけの収穫を得たことでしょう。近くに座っていた大人たちからは何度も怒られましたが、学生の頃居酒屋で大騒ぎしたことも今はよき思い出となっています。

「感染しにくい場所」にするのが重要

 そして読者には「私は飲食店にはよく行くけれど、新型コロナウイルスに感染はしていません」という方がたくさんいるでしょう。それも一面の真実です。ですが「感染した人」の側からみると、感染のきっかけが飲食店利用であったケースはかなりの割合を占めます。飲食店での感染が減れば、新規感染者は減ると予想されます。だから、飲食店を、今よりも感染しにくい場にすることは重要なのです。

 
 

「徹底した換気」とは

 話を戻しましょう。農林水産省はGoToイートに参加する飲食店が守るべき感染症対策としてガイドラインを出しています。この内容を、作成した人の立場に立って考えると、ひとつひとつの言葉の選択に相当苦労したであろうことが分かります。ですが、言葉があいまい過ぎて実践的ではありません。

 最も大切な「換気」についてみてみましょう。換気が十分でない飲食店で新型コロナウイルスの感染リスクが上がることは、査読前の論文でも指摘されています。

 このガイドラインでは「徹底した換気を行う」とされています。たしかに“徹底した”換気をしてくれるなら安心で、そうでないところがリスクとなるのは自明です。

 谷口医院で感染が分かった人を私なりに分析すると、換気のよくない飲食店利用が最大のリスクです。最も典型的なのが窓のないカラオケボックスですが、他にも(やはり窓のない)バーやクラブはハイリスクですし、居酒屋も「窓がなく入り口から遠い席」がひとつの着眼点となります。

グループの間をあけて

 グループ同士の「距離」については誰の目にも明らかですから、農水省のガイドラインのように「グループ間の距離を最低1メートル以上」としておけば評価が簡単にできます(ただし、この基準が守られていない飲食店はかなり多い)。

 そして、「グループ内」の感染予防対策については飲食店が関与する必要はないでしょう。以前、私が妻とあるレストランに行ったとき、店員から、はす向かいに座るように言われました。これはやりすぎだと思います。事を荒立てたくないのでその指示に従いましたが、店員が気を配らねばならないのはグループ内ではなく「グループ間」です。距離のみならず、大声で話したり、せきをして横のグループに感染させたりするリスクがないか注意を払うべきです。

 さて「換気」にもいろんな方法があります。単に換気扇を付けただけでも、換気をしていると言えるかもしれません。ですが新型コロナウイルスの対策として換気を行うのであればやはりHEPAフィルター(高性能空気フィルター)を導入したいところです。HEPAフィルターは、新型コロナウイルスと同様にコロナウイルスの一種が原因の重症急性呼吸器症候群(SARS)の対策にも有効とされたもので、大きさ1000分の0.3ミリの粒子をとらえることができます。コロナウイルスのサイズは1000分の0.1ミリほどですから、1000分の0.3ミリよりも小さいのですが、感染者が吐き出す飛沫(しぶき)に含まれたウイルスは十分に除去することができると考えられています。

 ただし「換気対策をしています」と飲食店が言うだけでは不十分です。本当に効果が得られているのかが、顧客の目から検証できなければなりませんし、そもそも飲食店が「うちはHEPAフィルターを備えていますよ」と言ったところで、それが正しいとただちに信用できるでしょうか。

 実は、この問題にはある程度対処できる方法があります。それはCO2(二酸化炭素)モニターです。空気中の二酸化炭素濃度が高ければ、空気が停滞して換気ができていないことを示唆します。すでに一部の自治体では保健所が飲食店のCO2濃度を計測しています。また、一部のライブ会場ではCO2濃度を大型モニターに表示し常に換気対策ができているかどうかを観客が知ることができます。

 
 

5カ条の提案

 そろそろ私見をまとめていきます。先に紹介した農水省のガイドラインはよく考えられていますが、実際にはあいまいな表現があり、実践的ではありません。この場でもっと分かりやすい「飲食店での新型コロナウイルス対策5カ条」を提案したいと思います。

 (1) グループ間の距離を最低1メートルあけた座席配置(グループ内の感染対策は飲食店の責任ではない)

 (2) CO2濃度を大きな画面に表示し、利用者が常に確認できるようにする

 (3) 換気にはHEPAフィルターを用いる

 (4) 音楽やテレビの音は小さくする(利用者に大声を出させないため)

 (5) 客が大声で話さないよう注意する

 問題は、こうした対策にお金がかかることです。CO2モニターはそんなに高いものではありませんが、HEPAフィルターは高額です。店の構造によっては、座席配置の変更にもそれなりの改装費がかかるでしょう。

 政府は医療機関に対しては最大100万円まで、HEPAフィルターの設置を含む感染対策に補助金を出しています。もちろん医療機関と飲食店では数に差がありますから同じようには補助できないかもしれません。ですが、少なくともGoToイートにかける費用を回すことはできるはずです。

 この5カ条を順守している飲食店があれば少々高くても利用する、という人も多いのではないでしょうか。長い目で見れば、飲食店にはGoToイートやGoToトラベルなどで発行される期限付きのクーポン券よりも、このような対策の方が重要です。今回のコラムが飲食店のオーナーの人たちの目にとまることを祈ります。人生で大切なことの7割くらいは居酒屋で学んだ私からのメッセージとして。

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。