
社会から求められる口腔ケア
看護教育の指導者として知られるバージニア・ヘンダーソンが、1960年、著書「看護の基本となるもの」の中で、こう記しています。
「歯を磨くことはごく簡単なことであると多くの人は思っているが、意識を失っている人の口腔(こうくう)を清潔に保つのは非常にむずかしく、また危険な仕事であり、よほど熟練した看護婦でないと有効にしかも安全に実施できない。患者の口腔内の状態は看護ケアの質をもっともよく表すものの一つである」
「口」という敏感で、人間の尊厳にかかわる器官のケアの難しさと重要性を述べています。現在、口腔ケアは狭義には口腔清掃を意味し、広義には顎(がく)口腔系に関するケアのすべてを指しています。また、歯科の専門領域では衛生面に重点を置く「口腔衛生管理」と、機能面に重点を置く「口腔機能管理」とに分け、両者を合わせて「口腔健康管理」としてさまざまな施策にこの概念を取り入れています。高齢化が急速に進むわが国にあって、口腔内に疾病や障害がある、または全身の疾病が口腔内にも疾病、障害となってあらわれている方々に対し、さまざまな専門職が協働してこの口腔ケアにあたることが社会から求められています。
口腔細菌とその特殊性
口腔は、温度、湿度、栄養などあらゆる点において、微生物が繁殖しやすい条件がそろっていることから、呼吸器の感染症をはじめ全身の疾患と密接に関連しています。そのため口腔保健上、口腔内の細菌のコントロールは極めて重要です。
たとえば朝、目覚めた時に口の中が何となく気持ち悪い感じや、口臭を感じるということがあります。それは、起床時に口腔内の細菌数が1日のうちで最大になっていることを示唆しているのです。
起床後の歯磨きは、寝ている間に増殖した口腔細菌の数を減らします。また、朝ご飯などの食事で唾液が分泌され、細菌の数はさらに減ります。このように口腔内の細菌は生活行動などによって1日のうちでも大きく変動をします。
長期間寝たきりの入院患者や要介護者は、看護・介護職員による口腔ケアがおろそかになると、歯垢(しこう)やたんなどで、細菌数がとても増えます。口と喉はつながっていますの…
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