
地元の郵便局員として慕われたHさん
80代男性のHさんは、地元の高校を卒業後、地元の郵便局に就職し、定年まで勤め上げてきた真面目な方です。
妻とはお見合い結婚で、仲むつまじく過ごし、1男1女をもうけました。長男は遠方の大学に進学し、その近くの会社に就職したため、なかなか会う機会がありませんが、長女は幼なじみと結婚し、隣町に住んでいるので、一緒に食事に行ったり、孫を預かったりする関係が続いていました。
小さな驚き
そんなHさんが75歳の時に、異変が生じました。いつもの慣れた道で買い物に向かったのですが、お店から出てきて、右に行けばいいのか左に行けばいいのかがわからなくなったのです。
どうしていいのかわからず、お店の人に「どっちだったかな?」と聞いて、「左ですよ」と教えてもらって家路に就いたということがありました。
家族は「気のせいかな」と思っていたのですが、道に迷うということのほかに、待ち合わせの時間を間違えるということがあり、家族もいよいよ心配になってきました。そこで、専門医に診てもらったところ、「初期のアルツハイマー型認知症」であることを説明されました。
ご本人は相当にショックを受けていました。しかし、妻や長女の励ましで、「ふさぎ込んでいてもしかたないな」と思い直したHさん。要介護認定を受け、介護保険のデイサービスにも通うようになりました。
人との接点がHさんを元気に
週2回のデイサービスは、趣味の囲碁が楽しめるところを選んだため、すぐに他の利用者とも打ち解け、休むことなく楽しみにして通うようになりました。元々、郵便局員として人と接することが得意だったこともあり、Hさんは、デイサービスでも人気者になるのに時間はかかりませんでした。
長女は、楽しそうにデイサービスに行くHさんの様子をとて…
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認知症ケアアドバイザー
ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら。