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新型コロナ 感染症を診る病院は「もっと検査を」

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
 
 

 今回はお正月特別連載の2回目です。前回は、日本の新型コロナウイルス対策として最もまずかったのが、新型コロナの検査数を少なく抑えてきたことだと述べました。実際、PCR検査の供給は、2020年春の時点ではまったく需要に追い付いていませんでした。現在は検査不足が解消されているのでしょうか。

 これには地域差があります。私の知る限り、最も検査の状況が充実しているのが東京です。東京ではPCR検査を希望すれば(どこで実施するかは別にして)「どこに行っても受けられない」ということはもはやほぼありません。春には検査が遅れて死亡した事例が東京にもあったわけですから(参考:「新型コロナで孤独死した友人に捧ぐ(上)」)、状況は大きく改善したと言えるでしょう。

地方ではまだ不十分なPCR検査の供給

 ただし地方では必ずしも充実しているとは言えませんし、大都市でも、例えば私が住む大阪では検査の供給が需要に追い付いていません。

 医療機関の中で検査をする際には、新型コロナが疑われる患者さんを他の患者さんに近づけてはいけませんから、検査を受ける人を時間的または空間的に隔離することが必要になります。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)のようにビル内にあるクリニックでは空間的隔離はできませんから時間的隔離をするしかありません。つまり他の患者さん全員が帰ってから来てもらうことになり、1日に診られる人数は限られます。

 そのような事情から谷口医院では「発熱外来」の対象者を「谷口医院をかかりつけ医にしている人」のみとしています。しかし、わらにもすがる思いで「他院から断られた。なんとかしてほしい」と電話をしてくる患者さんは少なくありません。また、「症状はないけれど濃厚接触だと思う。保健所には断られた」という相談もあります。つまり「検査を受けたいけれど受けられない」という人は今も多数いるのです。

 こうした検査不足が「需要に応えられていない」だけでは済まず、感染の拡大にもつながりかねないことは、前回述べた通りです。

医師不在の検査や郵送検査も

 一方、供給側にもさまざまなタイプが出てきました。以前は、検査を受ける場所は保健所管轄の検査会場か、谷口医院のような医療機関しかありませんでした。今は新型コロナのPCR検査を専門にするクリニックが全国で相次いで登場し、なかには美容系クリニックが運営するところもあります。テレビで検査のCMを流す医療機関も出てきました。さらに、医師が介在しない検査機関や、検査を受ける人が自分で採取した検体を、郵送させて受け付ける検査機関も出てきました。過去のコラム「新型コロナ 自己検査PCR『安易に受けないで』」でも紹介したように、感染を知られたくないという心理につけこんで「こっそり検査」をうたっているところすらあります。

 ここまでをまとめると、東京以外の多くの地域では「検査を受けたくても受けられない人」が依然多く、しかしその一方では、従来とは異なるタイプの医療機関や検査会社が増えてきているというのが現在の状況です。私は、いずれ供給が需要に追い付くだろうとみています。

検査を受けるべき場合と場所

 では、どのような人がどのような場所で検査を受けるべきなのでしょうか。これを考えるにあたり、検査を希望する人を四つにわけてみましょう。

 (1)発熱・せきなどの症状がある人

 (2)無症状だが海外渡航予定で渡航先から検査を求められている人

 (3)無症状(もしくは軽症)だが「私は感染したかもしれない」と考えている人

 (4)無症状で自身は感染を疑っていないが、周囲(企業・帰省先)などから検査を求められている人

 (1)の「症状がある人」は、医療機関か保健所に問い合わせるべきです。かかりつけ医を持っている人はかかりつけ医に、持っていない人は保健所に相談することになります。ただし「第〇波」と呼ばれるような流行が起こると、保健所の電話回線はすぐにパンクします。よしんば電話がつながったとしてもすぐに検査を受けられないこともあります。ではどうすればいいか。この連載で繰り返し伝えているように、早い段階でかかりつけ医を見つけておくことです。そのきっかけは、軽症の病気でも、何らかの健康上の悩みや健診での軽度の異常でも、なんでもかまいません。一度受診して「これからコロナの疑いがあれば相談してもいいですか」と聞いておけばいいのです。

 (2)「渡航準備としての検査」の需要は多く、谷口医院でも担っています。「海外渡航者新型コロナウイルス検査センター」(TeCOT)という、経済産業省と厚生労働省が運営するセンターがあります。このセンターが検査希望者と医療機関の間をつないで、渡航先の国に「陰性証明」を示すための、新型コロナ検査の予約を受け付けています。渡航先がシンガポールやベトナムなどの場合、センターが管理する「新型コロナウイルス検査証明機関登録簿」に登録されている医療機関で受けた検査だけが、有効な検査として認められます。

 渡航前の検査を担当する医療機関は、PCR検査を行うだけではなく「持病が海外で悪化したときにどうすべきか」など海外生活での注意点を助言します。谷口医院では、海外渡航をきっかけに谷口医院をかかりつけ医にした人も少なくありません。

 ただし、私見を述べれば海外渡航者への最善策は「空港での検査」です。現在、帰国者に対しては成田・関西などの国際空港で抗原検査が実施されています。帰国時にできて出国時にできないはずがありません。一日も早く、渡航する全員に対する検査を空港で(できれば公的機関が)実施すべきだと私は考えています。

唾液を出しやすいように、梅干しやレモンの写真が張られている特設ブース=成田空港で2020年8月17日午前11時50分、中村宰和撮影
唾液を出しやすいように、梅干しやレモンの写真が張られている特設ブース=成田空港で2020年8月17日午前11時50分、中村宰和撮影

「感染が心配」な人には医師が検査をすべき

 問題は(3)の「感染したかもしれない」と心配している人です。この場合、検査を依頼したが保健所で断られ、複数の医療機関で断られ……という人が少なくありません。さらにようやくどこかで検査をしたとしても不安が拭いきれず、「やはり感染したのではないか」という思いがとれずにノイローゼのようになることもあります。一方その逆に「検査で陰性だったから感染していない」と思い込んで実際は感染していたということもあり得ます。

 美容系クリニックでのPCR検査や、医師が介在しない検査会社でのPCR検査を嫌う医師は少なくありません。これは「人の不安につけこんで部外者が金もうけをするのはけしからん」という気持ちもあるとは思いますが、それ以上に、こういった機関では検査後のフォローができないからです。感染不安はときに生活を破綻させます。感染していないと思い込んでスプレッダー(多人数に感染を広げる人)になるようなことは絶対に防がなければなりません。ですから、「心配している人」については、感染症を日々診ている医師が検査をすべきだと私は思います。ですが、たいていの医療機関はこういうケース、つまり無症状(もしくは軽症)でその医療機関を未受診の人の検査を断っています。だからこそ、何でも相談できるかかりつけ医を持っておくことが大切なのです。新型コロナに限らず、健康のことで気になることがあればインターネットではなくかかりつけ医を頼れるのは大変心強いものです。

 (4)「周囲から検査を求められている人」については「検査は100%正しいわけではない」ことを理解した上でなら、どこで検査を受けてもかまわないと思います。美容系クリニックや、医師が介在しない検査会社でもそれほど問題はないでしょう。ただし「感染していても誰にも言わず医療機関を受診しない」のは問題です。また陰性の結果を受け取っても「感染していない」と思い込むのは避けてもらわねばなりません。

 ところで、多くの医療機関で収益が落ち込み、冬のボーナスが前年割れしているところも少なくないと聞きます。また、皮肉なことに新型コロナを積極的に診ている医療機関でその傾向が強いことが指摘されています。そして、そういった医療機関では過酷な勤務状況に耐えられなくなった(あるいは自身や家族が差別を受けた)医師や看護師の退職が相次いでいるそうです。するとますます人手不足になってしまいます。一方では、PCR検査でもうけている美容系クリニックや検査会社がある……。これは明らかな矛盾です。

 検査を受ける側からしても、金もうけのために専門外の感染症の検査を始めた美容系クリニックや医師の介在しない検査会社に抵抗がある人も少なくないのではないでしょうか。そういったところでは、簡便さという利点はあっても、何かあったときのフォローが期待できません。初めから「しっかりと説明が聞けて場合によっては治療もしてくれる、感染症を日ごろから診ている医療機関で検査を受けたい」と考える人が多いのではないでしょうか。

 ですから、「新型コロナウイルスを含めて感染症を診ている病院で、(3)『心配している人』はもちろん、できれば(4)『周囲から検査を求められている人』も診るようにすべきではないか」というのが私の意見です。そんな検査で利益を得たくないと考える関係者も少なくないとは思いますが、少なくともその「利益」が美容系クリニックや検査会社に流れて、さらにノイローゼになる人や、スプレッダーになる人を生み出すことを考えれば、引き受ける病院も出てくるのではないかと思うのです。

医師によって分かれる見解

 ところで私は前回、今回とも新型コロナ検査の拡充を訴えましたし、以前から「医師が疑ったときはもちろん、患者が希望したときも、検査の性質を説明して理解してもらった上で、検査を受けてもらうべきだ」と言い続けてきました。一方で、「感染したかもしれないときでも、軽症であれば検査を受ける必要がない」ということを春の時点では多くの医療者が言っていました。今もそう主張する人たちが少なくありません。このように医師の間でも「検査」に対する考えが異なるのが新型コロナの特徴かもしれません。

 では新型コロナの「ワクチン」や「治療」について、医療者はどう考えているのでしょうか。これについては次回述べます。(特別連載3回目はこちら

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太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。