実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ ワクチン接種には医師も慎重

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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 新型コロナウイルスはワクチンができたからもう安心。今年の後半には元の世界に戻ることができる、という意見を一般市民のみならず知識人からも聞きます。また感染しても、承認済みの薬「レムデシビル」や、現場で使われてきた「アビガン」だけでなく、複数のいい薬が登場間近だから安心、という声もあります。これらは本当でしょうか。まずはワクチンからみていきましょう。

 新型コロナウイルスのワクチンについては、懸念の声が大きく聞こえてきます。しかも非常に興味深いことに、一般の人ばかりではなく、医療者も慎重になっているのです。これはどういうことなのでしょうか。

万人が支持するワクチンはないが

 まず、どのようなワクチンでも、万人から支持されることはありません。それどころか、どう考えても言っていることがおかしいでしょ、という「おかしな理屈」でさえ、多数の人が信じてしまい接種を嫌がるのがワクチンです。例えば過去のコラム「麻疹感染者を増加させた『捏造論文』の罪」で紹介したイギリスの元医師ウェイクフィールド氏は、論文に不正があることが発覚し、その論文が医学誌から拒否され、医師免許剥奪までされたのにもかかわらず今も世界中で支持されています。それどころかウェイクフィールド氏が監督した、ワクチンを悪者にした映画までが製作され、いくつかの国ではそれなりにヒットしました。ちなみに、日本では公開直前に上映が中止となりました。

 このようにどのワクチンにも必ず「反対派」が現れるのですが、新型コロナのワクチンのように、医療者が慎重になっているのはとても珍しい現象です。ほぼすべてのワクチンでは、反対派が占める割合が、医療者では少なく非医療者で多くなります。非医療者のなかには「すべてのワクチンを打たない」という人がいますが、そのような医療者は皆無です。医学部では入学と同時にB型肝炎ウイルスのワクチンを接種しますし、麻疹(はしか)や風疹なども(過去に感染していなければ)ワクチン接種が義務付けられます。インフルエンザに感染したことを隠し、退学を余儀なくされた看護学生の話は以前のコラム「インフルのワクチンは『弱者を守るため』に打つ」で紹介しました。

 ここ数年で、日本で最も問題になっているワクチンは、子宮頸(けい)がんなどの予防のためのHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンでしょう。このワクチンの接種に関し、厚生労働省はいまだに「積極的勧奨の差し控え」というよくわからない表現をとったままです。このワクチンを打ちたくないという人は今も大勢いますが、医療者ではさほど多くありません。特に、(これは私の知る限りですが)若い女性の産婦人科医はほとんどが接種しています。若い女性看護師はどうかというと、医師よりは接種率は下がりますが、一般の人たちよりはかなり高率です。一般に、ワクチン接種率は医療者の方が非医療者よりも高いのです。

「早期に打ちたい」医師は3人に1人

 ですが、こと新型コロナウイルスのワクチンに関しては、医療者もかなり慎重です。

 医師向けの雑誌「日経メディカル」は2020年11月20日から12月2日までインターネットを使ってアンケートを行いました。回答した6830人の医師のうち「早期に(新型コロナ)ワクチンの接種を受けたい」と答えたのは35%のみでした。一方「早期に接種を受けたくない」は30%、「分からない」は35%です。

 では、なぜ医師の多くはワクチンに消極的なのでしょうか。日経メディカルは多くの意見を紹介していますが、それらからみてとれる最大の要因は「安全性」です。つまり医師の多くがワクチンの副作用を懸念しているのです。

 日本で最初に登場することになると予想されるワクチンはファイザー社のものですが、世界に名だたる超一流の製薬会社のものだからといってそれだけで信頼できるわけではないのです。さらに、ファイザー社の社長が、同社がワクチンの有効性を発表したその日に420万ポンド(1ポンドは約140円)近くの自社株を売却したことが報道され、これが不信感に拍車をかけています。

ワクチン接種は逆効果にならないか

 実は私自身も新型コロナウイルスのワクチンには慎重な姿勢をとっています。その最大の理由が「抗体依存性感染増強現象はないと言えるのか」というものです。これは少々難しい話になるのですが、簡単に言えば「ワクチンを接種した後でウイルスにさらされたときに、ワクチンを打っていないときよりも重症化する現象」です。もう少し詳しい説明に興味のある方は、過去のコラム「新型コロナ ワクチンが逆効果になる心配」を参照してください。

 実際、過去のコラム「人ごとでないフィリピン『ワクチン不信』と麻疹急増」でも紹介したように、フィリピンではサノフィ社のデング熱ウイルスのワクチン「Dengvaxia」が80万人以上の子供たちに接種され、600人以上がこの「抗体依存性感染増強現象」で死亡した可能性があるのです。フィリピン政府はこのワクチンの使用を中止し、世界保健機関(WHO)はフィリピン政府を支持、サノフィ社も同意しています。政府はこのワクチンを「永久に禁止」としました。

200人近くのデング熱の患者が診察を待つサンラサロ病院の待合室=マニラ首都圏マニラ市で、矢野純一撮影
200人近くのデング熱の患者が診察を待つサンラサロ病院の待合室=マニラ首都圏マニラ市で、矢野純一撮影

 「抗体依存性感染増強現象」が起こり得る感染症は、1回目よりも2回目に感染したときに強い症状が出ます。デング熱はその代表的感染症です。一方、一度感染すると二度と感染しないような感染症、例えば麻疹や風疹ではこのような現象は起こりません。では、新型コロナは1回目より2回目の方が重症化するのでしょうか。これについては、まだよく分かっていません。一度感染すると二度とかからないのか、何度も感染することが多いのかが不明なままです。私自身は、一度感染すると「中和抗体」ができて、「二度と感染しない」までは行かなくても数年程度は感染しなくなる可能性は残っていると思います。世界でこれだけ感染者が増えても2回目の感染がそれほど多く報告されていないことからそう推測できるのです。

 しかしながら、12月28日の時点で、新型コロナウイルスに確実に2回感染した事例が世界で31例報告されており、そのうち2人が死亡しています。「確認はできないが、2回感染したのではないか」という疑い例には、世界中で約2300人が該当し、24人が亡くなっています。確実に2回感染した31例でみれば、1回目よりも2回目の感染時に重症化した事例が10例あります。まだまだ断定できるような数字ではありませんが、新型コロナウイルスの2回目の感染時に「抗体依存性感染増強現象」が起こり得る可能性、ワクチンがそれを誘発する可能性は、現時点では否定できない、と私は考えています。

重症化を防ぐ「デキサメタゾン」

 さて、ワクチンに未知の部分があるとすれば、薬はどうでしょうか。新型コロナウイルスの薬については過去何度か取り上げています。最新の見解としては「確実に有効なのは『デキサメタゾン』という、昔からある安価なステロイドだけ」です。しかも重症化を防ぐことができるだけであり、患者全員に使う薬ではありません。もちろん予防には使えません。

他の期待された薬はどれも今一つ

 米国と日本で承認され期待されていた「レムデシビル」については、WHOは「必ずしも推奨しない」と表明しています。

 抗インフルエンザ薬の「アビガン」、抗HIV薬の「カレトラ」、トランプ米大統領が強く推奨して物議を醸した抗マラリア薬の「クロロキン」及び「ヒドロキシクロロキン」、日本の製薬会社が開発した抗体医薬品「アクテムラ」など多くの候補薬が期待され検証されましたが、いい結果が出ていません。過去に紹介した漢方薬「清肺排毒湯」は私自身は期待できると思っていますが、それを実証する研究や論文が追随していません。

「風邪をひかない」秘訣は

 ではどうすればいいのでしょうか。当面は、治療よりも予防に重点を置いて考えるしかありません。患者さんからは「なんで先生はコロナに感染しないって自信があるのですか?」とよく聞かれます。そもそも私は新型コロナが登場する前から、この連載や講演会で繰り返し述べているように、過去8年間で一度も風邪をひいていませんし、これからもひかない“予定”です。最後に新型コロナも含めて私が風邪をひかない理由を改めて紹介しておきましょう。

 鼻を洗う少女(iStock)
 鼻を洗う少女(iStock)

 (1) 相手にサージカルマスクを着用してもらえば新型コロナウイルスは自分にはうつらない(参照:「新型コロナ 感染は『サージカルマスク』で防げる」)

 (2) 室内での他人との飲食が最大のリスク(参照:「新型コロナ 飲食店にとってほしい五つの対策」)

 (3) 手洗いをさほど頻繁にしなくても顔(特に鼻の下)を触らなければ感染しない(参照:「新型コロナ 手洗いの盲点 洗った後に触る場所」)

 (4) (谷口式)鼻うがいはすべての風邪を予防する(参照:「鼻にいるコロナは喉の1万倍 対策は『うがい』」)

 (5) おそらく(「清肺排毒湯」と成分が似ている)麻黄湯は新型コロナにも有効(参照:「新型コロナ 効く薬が出る見通しは」)

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。