心の天気図

いつもの酒に潜む怖さ

佐々木 司・東京大学教授・精神科医
  • 文字
  • 印刷
 
 

 いつもは全く酒を飲まないのだが、ある晩ビールを1缶飲んで以来、夜になると何となく落ち着かない。酒を飲むとそれが治まるという日がしばらく続いた。わずかな量だが、間違いなくアルコールへの依存作用による現象である。普段飲んでなくても、少し飲み始めるとやめにくい。アルコール依存の怖さを自ら体験した。

 精神科では、飲酒による問題を抱えている人に出会うことは珍しくない。不眠で受診する人の中にもいる。ささいなきっかけで毎晩酒を飲むようになり、以来、夜中に目が覚めて眠れないことが増えたといった例である。これはアルコールのもつ催眠作用が夜中に切れ、その反動で眠れなくなるのである。中年以上の、脳の「眠る力」が弱くなった世代にはよく見られる。

 酒への依存というと、昔は男性の問題と考えられがちだったが、このごろは女性でも多い。気分の落ち込みと体のだるさを訴えて受診したある女性は、毎晩ビールを1リットルも2リットルも飲んでいて、量を半減させたら「気分も体調も随分良くなった」と驚いていた。ただ実際に酒量を減らすのはとても難しく、油断するとすぐに元に戻ってしまう。大変厄介だ。もちろんこれは、あらゆる酒類に共通した問題である。

この記事は有料記事です。

残り455文字(全文961文字)

佐々木 司

東京大学教授・精神科医

東京大学医学部医学科卒。東大病院、財団法人神経研究所晴和病院での勤務を経て、トロント大学クラーク精神医学研究所に留学。帝京大学医学部講師などを勤め、2008年に東京大教授。生活習慣や環境的諸要因と「こころと体」の健康との関連の解明、学校精神保健教育プログラム開発などを進め、英文国際誌を中心に成果を発表している。日本不安症学会理事長、日本学校保健学会常任理事。一般向け著書としては「その習慣を変えれば『うつ』は良くなる!」、共著に「精神科医と養護教諭がホンネで語る 思春期の精神疾患」