新型コロナウイルス「第3波」の中で、年末年始をどう過ごすべきか。また英国で広がった変異株をどう見ているか。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員で、日本感染症学会の舘田一博理事長(東邦大学教授)に聞いた。【くらし医療部・石田奈津子、酒井雅浩】
新型コロナ 日本でも「2週間に1回」変異
――英国で感染が急拡大する変異した新型コロナウイルスの感染者が日本でも確認されました。
◆英国で広く流行しているということは、英国人が多く行き来する地域に感染が広がっている可能性があります。日本で変異株が見つかったことは不思議ではなく、現時点ではそんなに広がっているという情報はありません。
そもそもウイルスに変異はつきもので、日本でも感染拡大以降、新型コロナは2週間に1回ほどのペースで変異しています。それは世界中で起きていることです。そのような状況で、今回英国で見つかった変異ウイルスは、どうも伝播(でんぱ)性が高い。少し危険な変異が起きているかもしれないということが分かってきました。
ただ、病原性についてはまだわかっていません。ウイルスは、ヒトを殺すために進化しているわけではなく、自分の遺伝子を残すのが目的で進化を繰り返します。宿主となるヒトを殺さないほうが自分の遺伝子を残せるから、ウイルスにとってはいい。新型コロナは長い時間をかけて、普通の風邪になる過程にある可能性があるとも言えます。
「リスクを冷静に評価」が重要
――過度に恐れる必要はない、ということでしょうか。
◆リスクを冷静に評価しながら、水際対策を徹底していくことが重要です。そして仮に変異株が広がり始めたとしても、私たちがすべきことは▽マスクを正しく使う▽3密を避ける▽手指消毒を徹底する――ということに変わりはありません。
このウイルスは通りすがりで感染を起こすようなものではありません。空気感染を起こすわけではないからです。例えば電車で感染者の隣に座ったとしても、マスクをし、会話していないのならば、うつるリスクは低いです。
「危険な変異株が現れて大変なことになる」というイメージを持っている人がいることを危惧しています。報道の責任もあります。「変異株は怖い」とあおるような報道をすると、みんなが不安になっていきます。そのような誤ったイメージは、感染者や医療従事者への差別や偏見につながります。私たち専門家も伝え方に気を付けていかないといけないし、メディアには冷静で正確な報道をしてほしいと思います。
――病原性が分からない段階では、強めに恐れたほうがいいのでは。
◆ただ「わからないから怖い」とパニックになっては逆効果で、「正しく恐れる」ということが大事です。
――国内で、変異したウイルスの感染者が多く見つかるようになったら、取るべき対策は変わりますか。
◆変わりません。この感染症は飲食を伴う場でうつることがわかってきたわけですから、その場を少しでも減らすことを徹底していくしかありません。それができていない地域で感染が広がっています。東京は繁華街が多く、コントロールできない状態が続いています
新型インフルエンザ等対策特措法の改正が話題になっていますが、飲食店に営業時間短縮を要請するのは大変なことです。時短営業で収入が減り、中にはつぶれる店も出てきます。補償をしっかりできるような仕組みとしての特措法の改正が重要だと思います。
特に感染者が多い20代
――第1波に比べて、人々の自粛に対する意識が低くなっている印象があります。
◆今、感染者が多いのは20~40代で、特に20代です。若い人たちはアクティブですし、生活を楽しみたいという気持ちもあるでしょう。若い人は重症化するリスクはそれほど高くないということも分かってきました。そうなると、なかなか抑制は利きません。
しかし、もしこのまま感染が広がると、社会や経済が大きくダメージを受けて、自分たちの仕事が失われる可能性があります。就職先もなくなるかもしれない。決して高齢者だけの問題ではないという危機感を共有しなければいけません。
来年2月までが非常に大事
――いつまで自粛すればいいのか、ゴー…
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