ジソウのお仕事

「そこまでしなくていい」に後悔

青山さくら・児童福祉司
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 残業を終えて、暗い坂道をバス停までとぼとぼ歩いていたら、男の子が「助けて!」と駆け寄ってきた。「大丈夫、安全な場所に逃げるから」。男の子を抱えて走り出したが、足がつって前に進めず、うなっているところで目が覚めた。酷暑の寝苦しい夜だった。

16歳への虐待にどう介入するか

 2020年5月、高校2年の16歳の少年が、父の暴力に耐えかねて、果物ナイフで父親を刺し殺したという事件が横浜市であった。父と少年がふたりで暮らす家庭。転居前に住んでいた相模原市で、少年は2度も児童相談所に一時保護されていた。父から虐待を受けていたのに、相模原市児相は転居先の横浜市児相にケースを引き継がなかったとして、事件後、非難を浴びていた。

 私の職場でもこの事件が話題になった。児相の対象年齢は18歳の誕生日までだ。16歳への虐待にどう介入する?? 16歳なんだから父から暴力を受けても自分の身は自分で守れるだろう。転居前に虐待はなかったことを相模原児相は確認している。父子から相談を受ければべつだが、虐待が再発していないかどうかの見守りを転居先の横浜市にわざわざ引き継ぐこともないだろうと相模原児相は考えたのではないか。

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青山さくら

児童福祉司

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)が20年1月刊行された。絵・中畝治子