医療プレミア特集

多様性の尊重と規制と~ノルウェー・コロナ事情(上)

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 世界で続く新型コロナウイルスとの闘いは、医療体制だけでなく、その国や地域が抱える問題をあらわにし、国民性や社会のありようを浮き彫りにしています。男女平等、移民の受け入れなど多様性の尊重で知られる北欧のノルウェーには、国境をまたいで遊牧生活を営む先住民族が暮らし、隣国はといえば、独自の緩やかな対策で注目されたスウェーデン。人々はどのような思いで暮らしているのか、ノルウェー社会に詳しい女性政策研究家の三井マリ子さんが2回に分けて報告します。

移民、先住民、男女平等と向き合ってきた歴史

 1980年代、ノルウェーでは「バイキング戦士の化身」と呼ばれる女性首相が誕生し閣僚の4割を女性が占める政権が発足した。「男女平等世界一の国」にひかれて三十余年、ノルウェー通いを続けている。近年は女性だけでなく移民系の人々も政界で目立つようになり、トナカイの遊牧で知られる少数先住民族サーミの声も反映されている。ただ、そんなノルウェー社会も、新型コロナウイルスと無縁ではない。しかも、往来盛んな隣国は、独自路線で注目されたスウェーデン。ノルウェーの人々はこの状況をどう受け止め、どう暮らしているのか紹介する。

移動の自由を制限された先住民サーミ

 北極圏の広範囲に散らばって暮らす先住民族サーミは、遊牧という独自の生活様式などから、差別や隔離された歴史を持つ。今から400年ほど前までは、ノルウェーでも国民として扱われているかどうかも怪しかった。中央政府から派遣された役人が「魔女」と決めつけると、冷たい海に打ち捨てられた。数年前、ノルウェー北端の行政中心地バドソー市にある図書館で当時の裁判記録を読んでショックを受けた。

 でも、今では北極圏カラショークに、サーミによるサーミ人のための「サーミ議会」まで誕生している。ノルウェー人サーミだけでなく、ノルウェーに定住するスウェーデン、フィンランド、ロシアの国籍を有するサーミも選挙権を持つ。先住民族として広い生活圏内の移動の自由も尊重されていて、今も、国境を越えて遊牧を営む人も少なくない。

 ノルウェー政府は2020年3月14日から全ての国への不要不急の渡航中止を勧告した。感染リスクが低い地域の往来を一部緩和した時期もあったが、秋に入ると入国や社会的接触・移動などに厳格な措置を講じた。ノルウェーで厳しい出入国規制がとられていると聞いたとき、まず頭に浮かんだのはサーミの人たちのことだった。サーミ議会議長アイリ・ケスキターロに「コロナパンデミックのさなか、サーミの皆さんはどんな生活を送っていますか」とメールすると、すぐ返事がきた。彼女は「ノルウェー・サーミ協会」というサーミ全体をけん引する団体の会長などを歴任して、05年「サーミ議会」初の女性の議長に就任。任期中に3人目を出産し、17年には3度目の議長に選ばれた。サーミの文化の振興に尽力し、国連でも先住民の権利拡充を訴える活動をしている。

 「国境が閉鎖されて大変です。人間も動物も移動がままならなくなりました。サーミにとってこの措置は、コロナ感染よりも痛手です。国境線の多くは1700年代から1800年代に引かれたもので、サーミの生活圏は、地理的にはノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがっていますが、サーミにとって母なる大地はひとつ。サーミには国境がないも同然だったのです。トナカイ飼育はむろん、家族の住まいや学校、買い物も含め、国境を越えて生活しています。移動の自由こそ、私たちの命綱なのです」

 ノルウェーは隣国スウェーデンと1600キロ以上も国境を接している。これまで長年あってないようだった「ソフトな国境線」が、20年3月、閉鎖されて「ハードな国境線」となった。「サーミ家族は崩壊寸前です」とアイリは書いてきた。

市民生活は制約を受けるも……従順だった18歳!

 では、都会の人々は、パンデミックとどう向きあっているのか。ノルウェー公共放送NRKで働くオスロ在住の友人ベンテ・シェルバンは昨年3月、こう伝えてきた。

 「昨日(3月12日)、幼稚園、学校、大学が閉鎖。集まりは人…

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