理由を探る認知症ケア

Yさんがじっと座っていられなかったのは…

ペホス・認知症ケア・コミュニケーション講師
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自宅に帰れずに不安に

 自宅で転倒して右脚を骨折したYさん(80代・女性)。病院でのリハビリのかいもあって、2カ月くらいで「シルバーカー」を使えば自分で歩けるくらいに回復してきました。しかし、1人暮らしをしていたこともあり、長男はYさんが自宅に戻ることに難色を示し、介護老人保健施設(老健)で引き続きリハビリを行い、その間に、自宅に戻るか、サービス付き高齢者住宅に移り住むかを判断したいということでした。

 老健に入所した当日は、「ここはどこなの?」「家にはいつ帰るの?」「もう何がなんだかわからないことばかり……」と繰り返しおっしゃられ、とても不安そうな様子でした。ご家族は説明しておられたのでしょうが、「退院したから家に帰れる」と思っていたYさんが驚くのも無理はありません。

 ただ、そこから興奮状態になるということではなく、スタッフは「しばらくリハビリをしてから、自宅に戻るんですよ」とお伝えしました。すると、「そうですか」「なんだかわからないわ」とおっしゃっていたものの、その日の夜もぐっすりと眠られました。

慣れても戸惑いは消えない

 Yさんは入所して1週間くらいで、「すぐに家には帰れないこと」や「リハビリのために施設にいること」は、わかってきたのです。ただ、日常のささいな瞬間に「どうしたらいいのかわからない」という発言をすることが増えてきました。

 例えば、シルバーカーの方向転換がうまくできない時に、「右に回りましょう」と伝えても「わからない」と言って止まってしまうので、スタッフがシルバーカーを動かす必要がありました。また、…

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ペホス

認知症ケア・コミュニケーション講師

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケア・コミュニケーション講師」「認知症ケア・スーパーバイザー」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。アプロクリエイト代表。