医療プレミア特集

新型コロナ 「集団免疫獲得の街」で起きた医療崩壊

医療プレミア編集部
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新型コロナウイルスに感染して入院した患者の家族らは、供給不足が起きた酸素を購入しようと奔走した=マナウスで2021年1月15日、AP
新型コロナウイルスに感染して入院した患者の家族らは、供給不足が起きた酸素を購入しようと奔走した=マナウスで2021年1月15日、AP

 ブラジル北部の都市・マナウスについて、一部の研究者は2020年半ばに新型コロナウイルスの「集団免疫を獲得した」との考察を出した。ところが現地では流行の第2波が深刻になり、年明け以降は医療体制が事実上の崩壊状態に。わずか数カ月で劇的な変化が起きたのか。もしくは「集団免疫獲得」の研究結果が間違いだったのか。【サンパウロ・山本太一】

ボンベの酸素がなくなり…

 「病棟全体で酸素がなくなった。多くの人が亡くなりかけている。どうか、お願いします。酸素のある人は持ってきてください」。新型コロナに感染し入院中の義母(67)に付き添うタリタ・ホッシャさんは1月14日、インスタグラムに投稿した動画で涙ながらに病院の惨状を訴えた。

 地元メディアによると、酸素吸入を受けていたホッシャさんの義母は同14日未明時点で、血中酸素濃度が100%近くに回復し、入院以降、容体は最も安定していた。だが、同日朝に酸素が途切れ、ホッシャさんは急激に品薄状態になっていた市販の酸素ボンベをどうにか購入し、義母に装着した。だが、酸素の量が十分ではなく、みるみるうちに酸素濃度が低下し、義母はこの日の夜に亡くなった。

 「この世の終わりのようだった。義母はコロナではなく、(酸素不足の)窒息で亡くなった。酸素不足が起きなかったら、生き残っただろう」。ホッシャさんは地元メディアにこう打ち明けた。

「戦争状態だ」州当局

 州都マナウスを中心としてアマゾナス州で起きている事態について、パズエロ保健相は同14日、「病院のシステムは崩壊していると思う。非常に深刻だ」と認めた。アマゾナス州当局も「戦争状態だ」と非常事態宣言を出し、この日から原則、夜間から早朝にかけての商業活動や市民の外出を禁止し、行動制限を強化した。

 州内の医療資源が集中するマナウスでは同9日以降、毎日200人以上のコロナ患者が新規に入院した。ほとんどの病院は受け入れ態勢が限界に達し、入院が必要な多数の感染者が自宅待機を強いられた。そのため治療を受けられずに自宅で亡くなる人が出ているとみられている。医療現場では一定の治療を受けながら亡くなる患者に加え、酸素不足が要因とみられる死者も相次いだ。看護師らが交代しながら手動による人工呼吸をするケースも続出している。

 ホッシャさんら患者家族や医療従事者の悲痛な訴えが広がったのを受け、保健省は同15日、マナウスから重症患者の空輸による州外搬送を始めた。保健省や一般の寄付による酸素ボンベの提供で、極端な酸素不足は緩和されたが、供給はなお不安定なままだ。

 ブラジルの主要都市にもかかわらずマナウスの医療体制は脆弱(ぜいじゃく)といわれ、流行の第1波に襲われた直後の20年4月に一度は壊れかけた。そして第2波に襲われた今、2度目の危機に直面している。アマゾンの熱帯雨林地帯の中央に位置す…

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