医療プレミア特集

コロナで顕著化 “ステイホーム”で苦しむ“ホーム”なき女性たち 松本俊彦さんに聞く(上)

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
  • 文字
  • 印刷
「1回目の緊急事態宣言解除後に外で食事した時に『人間はこうやって人と向き合って、唾を飛ばし合いながら生きてきたんだな』と思いました」と語る松本俊彦さん=清水健二撮影
「1回目の緊急事態宣言解除後に外で食事した時に『人間はこうやって人と向き合って、唾を飛ばし合いながら生きてきたんだな』と思いました」と語る松本俊彦さん=清水健二撮影

 国内で感染が初めて確認されてから1年経過した現在も、収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染症。未知の感染症への不安や、急激な生活環境の変化などで、私たちの心の健康にも大きな影響を及ぼしています。「コロナによって女性の生きづらさが顕在化しました」と語る国立精神・神経医療研究センター病院の松本俊彦・薬物依存研究部長(53)に、コロナ禍の影響などを聞きました。【聞き手・西田佐保子】

依存症は孤立の病

 ――コロナの感染拡大によるメンタルヘルスへの影響を感じることはありますか?

 ◆精神科での診療時に、いくつか感じることがありました。違法薬物やアルコールなど依存症の患者さんたちが、お酒や薬物をやめ続けるために効果的なのは、(当事者やその家族が互いに支え合い、問題を乗り越える)「自助グループ」に通うことですが、コロナ感染拡大防止のため多くのミーティングが休止されました。オンラインで開いてはいますが、皆で握手したりハグしたりすることはできません。オンラインミーティングの場から「退出」すると、現実では再び独りぼっちの部屋に取り残されており、その一抹の寂しさのなかでお酒や薬物を再開する人もいます。

 「依存症は孤立の病だ」と私はいつも言っていますが、コロナ禍でますます孤立が深まっています。コロナは、マスクやアクリル板など物理的な分断だけでなく、人とのつながりをも分断します。

 リストカットなどの自傷行為や自殺をしようとしたり、市販薬や処方薬を乱用したりする10代、20代前半の女性を担当するケースも増えました。また「ステイホーム」の呼びかけにより、お父さんはテレワーク、お母さんも自宅待機で、今まで以上に密になった家で多くの時間を過ごさねばならない子どもたちがいます。

 世の中には、「ハウス」はあるけれど、「ホーム」がない人たちがいます。ハウスというのは物理的に人が居住する建物を指しますが、ホームは安心してくつろげる居場所を意味すると思います。10代の市販薬乱用者の中には、もともと両親の仲が悪かったり、親にアルコール依存の問題があったりする家の中でしんどい思いをしつつも、学校や放課後の遊びを息抜きにしてきた子もいます。でも、「ステイホーム」で過密化した家の中でストレスが強まり、「消えたい」という気持ちが強くなり、リストカットや自殺をしようとする。このような女性が増えてきました。これはあくまでも私の体感ですが……。

 処方薬を乱用している20代女性の多くは、そんな家を抜け出し、早すぎる自立をしています。都市部で一人暮らしするために、接待を伴う飲食店や風俗店などで働いていたもののコロナの影響で仕事ができなくなり、収入を断たれてしまう。あるいは「パパ活」や援助交際などで何とか生活できたのが、それも立ち行かなくなる。さまざまな理由により生活保護制度などにアクセスすることができず、経済的に行き詰まってしまい、命を絶とうとするケースも出てきました。

苦境に立たされる女性たち

 ――全国で昨年10月の自殺者数は2199人で、前年同月比で660人(42.9ポイント)増加。うち女性は88.6ポイント増で、特に20代と40代の女性は2倍以上に増えたことがニュースにもなりました。

 ◆男性は家の外の他人との関係の中でメンツ…

この記事は有料記事です。

残り2827文字(全文4185文字)

西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。