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児童福祉法改正 「施設から家庭へ」実現するか/上

医療プレミア編集部
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早稲田大社会的養育研究所の上鹿渡和宏所長=東京都新宿区の早稲田大で2020年11月30日、黒田阿紗子撮影
早稲田大社会的養育研究所の上鹿渡和宏所長=東京都新宿区の早稲田大で2020年11月30日、黒田阿紗子撮影

 2016年の改正児童福祉法で、虐待を受けるなどして親元で暮らせない子どもを原則として里親などの家庭で育てることが国や自治体の方針として定められ、全国で改革が始まっている。現在は約8割の子どもが施設で生活するが、国はまず24年度までに3歳未満の75%以上を里親家庭に転換する目標を掲げている。ところが、国と同じ数値目標を掲げる自治体はわずか1割しかない。果たして実現するのだろうか――。20年4月に早稲田大学に設立された「社会的養育研究所」の所長である児童精神科医の上鹿渡和宏教授(49)に聞いた。【くらし医療部・黒田阿紗子】

「子どもの最善の利益」を

 ――「施設から家庭へ」の大転換は実現するのでしょうか。

 ここ5年、10年が勝負だと思っています。子どもたちのために、やるしかないし、やらなければなりません。

 なぜなら、16年に改正された児童福祉法で、「子どもの最善の利益」を保障するために、それが必要だと明記されたからです。子どもが生まれた家庭で育つことを第一に考え、まずは子どもを育てる保護者を支援します。それが難しい場合、養子縁組や里親といった別の家庭、それも適当でない場合は家庭的で小規模な施設で子どもを養育することが、国と自治体の責務になりました。

 この取り組みを後押しするために、社会的養育研究所を作りました。20年7月から日本財団の助成を受け、本格始動しています。イギリスが1970年代以降、「施設から家庭へ」とかじを切るにあたって重要な役割を果たしたのが、施設や家庭での養護に関する評価研究です。研究結果が施策と実践に反映され、うまく歯車がかみ合い、転換を実現させました。しかし、日本にはこの分野を専門とする大学研究機関がなく、実証的な研究が著しく不足しています。その役割を担い、施策を作る国や自治体、実践する里親や施設、さまざまな領域の研究者などの「ハブ(結節点)」になりたいと思っています。

社会的養育=社会が子どもを支えること

 ――研究所の名前にもある「社会的養育」とは何でしょうか。

 虐待を受けるなどした子どもを自治体が保護し、里親家庭や施設に委託して育てることを「社会的養護」といいます。「社会的養育」は、子どもが元の家庭で暮らし続けることができるように、その前の段階から社会がしっかり支えていくことを含んでいます。

 ――そもそも、なぜ里親家庭への転換が必要なのですか。

 安定した家庭環境で、特定の大人と愛着関係を築くことによって、子どもの心身の発達は促されていくからです。特に小さいうちの環境が重要です。

 米国研究者による有名なルーマニア孤児研究があります。ルーマニアでは70~80年代、独裁政権の人口政策の影響で、多くの子どもが大規模施設で暮らしていました。政権崩壊後、そのまま施設で育った子どもと、支援体制の整った里親家庭に移った子どもを比較すると、施設の子どもに知的な遅れが目立った一方、里親家庭に移った子どもには認知機能などに回復がみられました。特に2歳ま…

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