医療プレミア特集

HPVワクチンへの不安を取り除き、女性を守りたい/上

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
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「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を運営する一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」の代表理事で、産婦人科医の稲葉可奈子さん
「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を運営する一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」の代表理事で、産婦人科医の稲葉可奈子さん

 日本では年間約1万1000人が子宮頸(けい)がんに罹患(りかん)し、約2900人が死亡しています。その原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防できるのが、世界保健機関(WHO)も「有効かつ安全」との見解を示すHPVワクチンです。日本では、小学6年生から高校1年生までの女子が公費で受けられる定期予防接種ですが、厚生労働省が「積極的な勧奨」を7年半以上差し控えていることもあり、接種率は1%未満にとどまっています。「HPVワクチンに対する不安を払拭(ふっしょく)したい」。そう訴える「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を運営する一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」の代表理事で産婦人科医の稲葉可奈子さん(37)に聞きました。【聞き手・西田佐保子】

「放っておくことはできなかった」

 ――「みんパピ!」を立ち上げた経緯をお聞かせください。

 ◆日本では予防接種法に基づき、小学6年生から高校1年生までの女の子を対象にした公費によるHPVワクチンの定期予防接種が2013年4月にスタートしました。接種後に慢性疼痛(とうつう)、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、運動障害、失神、けいれんなどの多様な症状が報告されたことを受け、同年6月に厚労省は「積極的勧奨を控える」と発表しました。多くの自治体で接種対象者に個別通知が送られなくなり、結果、開始当初に70%程度あった接種率は1%未満に激減したのです。

 その後、国内外でHPVワクチンの安全についてさまざまな調査が行われ、WHO、米疾病対策センター(CDC)、欧州医薬品庁(EMA)などはHPVワクチンの安全性を再確認したと報告。16年4月には、日本産婦人科学会や日本小児科学会など17の関連団体が、HPVワクチン接種推進に向けて「専門的な見地から積極的な接種を推奨する」との見解を発表しました。

 また、ワクチンの薬害を訴える「子宮頸がん予防ワクチン被害者連絡会愛知支部」の要望を受けた名古屋市は、HPVワクチンと副反応との関係性を明らかにするために大規模疫学調査「名古屋スタディ」を行い、小学6年生から高校3年生まで約7万人(HPVワクチンの接種者および非接種者)を対象に、激しい頭痛や倦怠感などワクチン接種後に起きたとされる24項目の症状を比較した結果、「接触者群と非接種者群との間に差がなかった」と18年に報告しました。それにもかかわらず、HPVワクチンをめぐる状況は変わりませんでした。

 学会が声明を出しても変わらず、安全性に関する報告が出ても変わらず、では何をすれば変わるのか。一産婦人科医として「何ができるか」を考えはじめ、「ただ放っておくことはできない」「見過ごせない」との思いで、啓発活動を行うようになったのが、今から3年前のことです。

 もちろん、HPVワクチン接種後から現在に至るまで、多様な症状に苦しむ人たちを否定してはいけません。接種後に何らかの症状が現れた人たちのための診療相談窓口が全国85医療機関に設置されています。彼女たちの気持ちにしっかり寄り添い、治療をに当たることは大切です。

 外来では、中学生(HPVワクチンの定期接種対象年齢)くらいのお子さんがいそうな方に、HPVワクチンの話を振ってみるなど草の根的な啓発を行いつつ、オンライン・オフラインいろいろな形での啓発活動を模索してきました。ただ、もともとHPVワクチンに興味がある人にしか情報が届きません。

 正確な情報を医師が発信するだけでは人の行動変容までには結びつかない。そこで、人間の行動を科学的に研究した「行動科学」の考え方を取り入れ、効率的に情報発信する方法を探りました。産婦人科医だけでなく、同じくHPVワクチン接種率の低さに危機感を持つ小児科医や公衆衛生医、行動科学の研究者や弁護士など多分野の専門家10人が集まり、これまでリーチできなかった、本当に伝えたい人たちに情報を届けるために、「みん…

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西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。