医療プレミア特集

HPVワクチン 情報格差が健康格差に/下

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
  • 文字
  • 印刷
4児の母で、産婦人科医の稲葉可奈子さんは、「子宮頸(けい)がんは予防ができます。多くの人がその機会を逃していることを、産婦人科医としてこれ以上、見過ごすことができません」と訴える=本人提供
4児の母で、産婦人科医の稲葉可奈子さんは、「子宮頸(けい)がんは予防ができます。多くの人がその機会を逃していることを、産婦人科医としてこれ以上、見過ごすことができません」と訴える=本人提供

 日本では75人に1人の女性が子宮頸(けい)がんと診断され、1日あたり8人が子宮頸がんで亡くなっています。その原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防できるのが「HPVワクチン」(子宮頸がんワクチン)です。現在、120カ国以上で国の予防接種プログラムとして導入されており、日本でも小学6年生から高校1年生までの女子が公費で受けられる定期予防接種に指定されています。「女性ごと」だと思われがちなHPVですが、肛門がんをはじめ男女問わずさまざまながんの発症にも関係し、米国やオーストリアなど約40の国と地域では、男性もHPVワクチン接種の公費助成対象になっています。「情報格差が健康格差につながっている」と話す「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」の代表理事、稲葉可奈子さん(37)に、HPVについて聞きました。【聞き手・西田佐保子】(前編:HPVワクチンへの不安を取り除き、女性を守りたい)

HPVは誰もが感染しうるウイルス

 ――HPVとは、どのようなウイルスなのでしょうか。

 ◆HPVは、皮膚や粘膜の接触により感染する小さなDNAウイルスで、主に性交渉(オーラルセックスを含む)で感染します。性交経験がある人の約8割は、生涯に一度は感染すると推定されており、誰でも感染する可能性がある「ありふれたウイルス」です。

 HPVには200種類以上の遺伝子型(タイプ)があります。そのうち「がん」の原因となるものを「ハイリスクHPV」(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68型など)、尖圭(せんけい)コンジローマなどの原因となるものを「ローリスクHPV」(6、11、42、43、44型など)と呼んでいます。ハイリスクHPVは子宮頸がんだけでなく、肛門がん、中咽頭(ちゅういんとう)がん、陰茎がんなど、男性がかかるがんの原因にもなります。尖圭コンジローマは性器や肛門にできる“イボ”で、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の低下につながる性感染症です。

 ハイリスクHPVに感染しても、すぐにがんになるわけではありません。多くの場合は一過性の感染で終わりますが、約10%でHPV感染が持続し、細胞に異常をきたすことがあります(前がん病変)。前がん病変は、軽度・中等度・高度に分類され、自然に正常に戻ることもあれば、軽度や中等度でとどまることも、徐々にがんにまで進行してしまうこともあります。そのため、20歳以上の女性は定期的に子宮頸がん検診を受け、前がん病変の段階で見つけることが重要です。

 ただ、先ほどもお話ししたように、がん検診では異常が出てからしか見つけることができません。前がん病変にすらならないためには、原因であるHPVの感染を防ぐ必要があります。残念ながら、コンドームだけでは完全に防ぐことはできません。唯一、予防できるのがHPVワクチンです。

 HPVワクチンは3回接種することで十分な免疫が得られることが確認されています。全ての接種が終了するまでに6カ月必要です。タイミング的には、初めての性交渉を持つ前に、HPVワクチン接種を終えているのが理想的です。定期予防接種の対象となる小学6年生から高校1年生の間であれば、無料で接種できます。

2価、4価、9価、どれを選ぶ?

 ――「積極的勧奨の差し控え」の姿勢は変えず、昨年10月、厚生労働省は自治体に、定期接種の対象者にお知らせを送るよう通知を出しました。HPVワクチンには、定期接種の対象となっている2価(商品名:サーバリックス)と4価(商品名:ガーダシル)、また昨年7月に製造販売が承認され今月24日に発売が決まった9価(商品名:シルガード9)があります。何を基準に選ぶべきでしょうか。

 ◆予防できるHPV型の数によって、2価、4価、9価と、3種類のHPVワクチンがあります。2価は、子宮頸がんの発症原因の約60〜70%の原因を占めるハイリスクHPVの16型と18型、4価ワクチンはそれに加えて、ローリスクHPVの6型と11型の感染を予防します。9価ワクチンは、その4種類に加えて、さらにハイリスクHPVの31型、33型、45型、52型、58型の全部で九つのHPV型をブロックし、子宮頸がんの90%程度が予防できると考えられています。

 日本で公費接種の対象になっているのは、2価と4価です。定期接種対象者があえて自費で9価を接種すべきかどうかは、人それぞれ判断が異なると思います。スウェーデン研究チームの報告では、17歳までに4価のワクチンを接種することで、子宮頸がんのリスクを88%下げたというデータがあります。9価を接種する場合、自費で10万円程度です。その費用を惜しまず、数%でもリスクを減らしたいのであれば、9価を接種するのもよいと思いますが、やはり無料で接種できるというのはとても大きいと思います。いずれは9価も定期予防接種の対象になることを期待します。

 なお、新しいワクチンなので、効果の持続期間についての長期的なデータはありませんが、推計では約20年続くことが見込まれています。

 ――厚労省が現在も積極的勧奨の一時差し控えを継続していることについて、どのようにお考えですか。

 ◆安全性が確認…

この記事は有料記事です。

残り4779文字(全文6934文字)

西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。