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去りゆく者が残した贈り物「エンド・オブ・ライフ」

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
「在宅医療の理想を追って『なぜうちはうまくいかないのだろう』と悩んでいる人たちにも、ぜひ手に取ってほしい」と語る佐々涼子さん=東京都千代田区で2021年1月27日、西田佐保子撮影
「在宅医療の理想を追って『なぜうちはうまくいかないのだろう』と悩んでいる人たちにも、ぜひ手に取ってほしい」と語る佐々涼子さん=東京都千代田区で2021年1月27日、西田佐保子撮影

 全国の書店員が選ぶ「Yahoo!ニュース 本屋大賞ノンフィクション本大賞」を昨年受賞した、ノンフィクションライター・佐々涼子さん(53)の「エンド・オブ・ライフ」(集英社インターナショナル)。一度は執筆を断念しつつも、7年もの歳月をかけて完成させたという同作では、自宅で最期を迎える患者や家族、在宅医療を支える医師、看護師、ヘルパーらの姿、そしてステージ4の膵臓(すいぞう)がんと診断された友人の訪問看護師と過ごした最後の日々がつづられている。佐々さんは「在宅医療について、自分がどう生きるのかについて、考えるきっかけになれば」と話す。

在宅医療に興味を持ち始めた理由

 「在宅医療について取材しませんか」。旧知の編集者から声が掛かり、2013年から佐々さんは紹介された京都市内の渡辺西賀茂診療所で取材を始めた。だが当初、在宅医療についてポジティブな印象を持っていなかった。「在宅は家族の負担が大きい。否定はしないけれど、自分には難しいという思いがありました」

 渡辺西賀茂診療所では、医師、看護師、理学療法士、ヘルパーなど、さまざまな職種の人たちが連携し、病気やけがにより通院できない人や自宅での終末医療を望む人たちの在宅療養を献身的にサポートしていた。ときに、「思い出作りのため、最後に家族で潮干狩りに行きたい」という37歳の末期がん女性の願いをかなえるために、週末を返上してボランティアで奮闘するスタッフの姿も佐々さんは追った。

 ただ、「在宅医療は簡単ではない」という思いは、取材後も変わることはなかった。「家族で明るく卒業式のように最期を迎えて亡くなる患者さんもいました。でも、幸運なケースだけではありません。素晴らしい現場を見て書けば、素晴らしい話ばかりにはなるけれど、『自分にできるか』と問われたら、やはりわからない。結論は出ませんでした」

 在宅医療に興味を持つきっかけは、佐々さんの母だった。…

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毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。