
新型コロナウイルスの感染防止のため、今も多くの病院や高齢者福祉施設などでは面会の原則禁止を掲げている。長い間、直接言葉を交わすことも触れ合うこともできず、最期の瞬間にさえ立ち会うことがかなわず、悲嘆に暮れる遺族も多い。埼玉医科大学国際医療センターの遺族外来で診療にあたる精神科医の大西秀樹さんは「自分は立ち直る力を持っていると信じて、まずは生きていてほしい」と語りかける。
死別は人生最大のストレス
「人生で最大のストレスは死別です。私たちは日々、さまざまな喪失を経験していますが、亡くなった人は永遠に戻ってきません。大切な人との死別は、ピラミッドの中心にあった一番大切な基礎の石が崩れたことに例えられます。人生に必要なピースがないまま、日常を再構築しなくてはならないからこそ、難しいのです」
これまで約30年、がんで家族や友人などを亡くした人が受診する「遺族外来」の診療で多くの遺族を診てきた大西さんであっても、19年前に「(大西)慶一さんが心筋梗塞(こうそく)で倒れて意識がない」と自身の父の危篤を知らせる電話を診療中にもらったときの衝撃は、いまだに強烈な印象として残っているという。
「父の死後、4日で仕事に復帰して、仕事が手につかないということはありませんでした。でも半年間、雑踏で父に似ている人を見かけては『はっ』としました。自分で大丈夫と思っていても、心にダメージを受けていたのでしょうね。私のような医療従事者でもそうですから、一般の方はよりつらい思いをしているはずです」
コロナ禍で病院の面会制限などもあり、大切な人と最期を一緒に過ごせなかったことを悔やんでいる人も多い。新型コロナウイルスに罹患(りかん)し、ガラス一枚隔てた相手と最期の瞬間に寄り添えなかった遺族も同様だ。実際、みとりをした人に比べ、心の立て直しが遅いとの報告もあるという。
「おそらくまだ混乱のまっただ中にあるのではないでしょうか。会えなかった悲しみ、『こうすれば良かった』など、後悔や自責の念を募らせているでしょう。でも大切なのは、愛する人と送った長い人生です。その月日に目を向けるようにしてください」
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西田佐保子
毎日新聞 医療プレミア編集部
にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。
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