実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナ ブラジルで再び流行した理由

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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ブラジル・マナウス市の風景。市内には日本の総領事館や日本人学校があり、日系企業が進出し、日系人も多く住む=ゲッティ
ブラジル・マナウス市の風景。市内には日本の総領事館や日本人学校があり、日系企業が進出し、日系人も多く住む=ゲッティ

 過去のコラム「新型コロナ ブラジルでの“集団免疫”とその代償」で、ブラジルのアマゾナス州の州都マナウスでは、昨年秋の時点で、新型コロナウイルスの推定感染率、つまり、新型コロナに対する抗体を持つ住民の割合が66%にも上ったという話をしました。マナウスで何が起こったかについて二つの重要な点を述べました。一つは、いわゆる「集団免疫」ができるまでもう一歩、あるいはすでにできたかもしれない、ということです。なお集団免疫とは、感染者が持つウイルスが他人を攻撃しても、攻撃相手の大半が免疫を持っていて新たな感染が起きにくく、感染が大きくは広がらない状態をいいます。

 一般に、その地域での抗体陽性率(抗体は、感染するかワクチン接種を受けるとできます)が7割(4~6割という説もあります)を超えれば、集団免疫が成立し、その後は感染が広がらないであろうと考えられています。マナウスは昨年秋の時点で、その集団免疫をほぼ達成しつつあったと思われていました。

 マナウスで起こったもう一つの重要なことは、そこにたどり着くまでに大勢の犠牲者を生み出したということです。昨年秋の時点で、マナウスの新型コロナウイルスによる死亡者は4000人近くにも上り、人口が約218万人ですから、100万人あたりの死亡者は2000人近くにもなりました。しかも、マナウスは60歳以上の人口がわずか6%の若者の街なのです。

 集団免疫ができつつある(あるいはできた)としても、大勢の犠牲者を出したわけですから「成功」とは言えず、まして高齢者が多い先進国でこの地域のまねをすることはできません。おそらく「マナウスに倣ってみんなで感染しよう」などというようなことを言う識者は(ほぼ)皆無です。

 さて、多くの犠牲者を出したとしても、その後新型コロナを克服したのだとすれば亡くなられた方も報われるかもしれません。新型コロナを恐れなくてもいい社会を迎えられるのですから。

既感染者7割超でも1月にロックダウン

 では実際はどうなのでしょうか。医学誌「The Lancet」2021年2月6日号にその後のマナウスの実情が報告されています。論文のタイトルは「既感染率が高いにもかかわらず、マナウスで新型コロナが再びまん延(Resurgence of COVID-19 in Manaus, Brazil, despite high seroprevalence)」です。

 論文によれば、マナウスでの血清抗体陽性率は20年10月の時点で76%に達し、すでに集団免疫が獲得できたと考えられていました。この地域での感染者のピークは4月で、5月から11月までは新規感染者は減少傾向にありました。7月にはフィジカ…

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。