まず皆さんに質問です。

 「がんになったら、どのような治療を選ぶべきでしょうか?」

 世の中にはたくさんのがん治療があり、日本では主に、標準治療、先進医療、代替療法、民間療法、自由診療などが行われています。いくつかは名前を聞いたことがあるかもしれません。

 「名前を見る限りでは『標準』ということは並だろうから、何となく『先進』がすごそう」「『自由』もいいな」などと思った人もいるでしょう。

 実は、がんになって、最初に検討すべきなのは標準治療です。同様の質問を世界のがん治療専門医にした場合も、ほぼ全ての医師が同じように答えます。なぜかというと、現時点で明確な効果が確認されているのは、標準治療だけだからです。それ以外は効果が不明です。

 今回は多くの方が誤解している標準治療について解説していきたいと思います。

「標準=並」の治療?

 がん治療には長い歴史があり、何百〜何千という治療がそれぞれのがんに試されてきました。その中で、最も治療成績が良くて、患者にまず推奨すべきだとされる治療を標準治療と呼んでいます。

 標準というと「並」のイメージがあるので、少し違和感を持った方もいるかもしれません。標準治療は、英語の「Standard therapy(スタンダードセラピー)」の日本語訳ですが、「Standard」は「多くの人が使うべき良いもの」というニュアンスを含みます。

 例えば、米国の会社には「Standard Oil」「Standard Furniture」のように、Standardがつく会社名が少なくありません。もちろん、これは並ではなく、高品質という意味で使っています。誤解を受けやすい表現で申し訳ないのですが、標準治療は最善の治療だと覚えてください。

どんな治療なの?

 標準治療は、手術、放射線、抗がん剤、緩和ケアなどの組み合わせで行われ、がんの種類(肺がん、乳がんなど)、進行度(ステージ1、2など)、患者さんの状況(年齢、体力、合併症など)によって異なります。

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がん研究者/アラバマ大学バーミンハム校助教授

筑波大学医学専門学群卒。卒業後は脳神経外科医として、主に悪性脳腫瘍の治療に従事。患者と向き合う日々の中で、現行治療の限界に直面し、患者を救える新薬開発をしたいとがん研究者に転向。現在は米国で研究を続ける。近年、日本で不正確ながん情報が広がっている現状を危惧して、がんを正しく理解してもらおうと、情報発信活動も積極的に行っている。著書に「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社、勝俣範之氏・津川友介氏と共著)。Twitterアカウントは @SatoruO (フォロワー4万5千人)。