正常と認知症の境界状態のことを「軽度認知障害」といいます。記憶力をはじめとする認知機能は、年齢不相応に低下しているものの、日常生活に支障が出ない程度にとどまっている状態です。「忘れっぽい」「言葉が出にくい」「物事の段取りがしにくい」などのさまざまな症状が出るものの、その症状は比較的軽く、正常範囲ではありませんが認知症でもありません。軽度認知障害と認知症との違いは(1)日常生活に支障がないこと(2)必ずしも進行しないこと――です。進行するどころか逆に正常範囲に復帰する人も珍しくありません。従って軽度認知障害と診断されたからといっても特別に心配しすぎたりふさぎ込んだりしないのが重要です。今回はこの軽度認知障害について述べます。

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ひょうごこころの医療センター認知症疾患医療センター長

おだ・はるひこ 1977年、兵庫県西宮市出身。兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医師。神戸大学医学部卒。医学博士。神戸大学医学部精神科助教、兵庫県立姫路循環器病センター等を経て2017年4月より現職。日本精神神経学会専門医・指導医。日本老年精神医学会専門医・指導医・評議員。著書に「科学的認知症診療」(シーニュ社、2018)