理由を探る認知症ケア

なぜ、父は50歳の私を子ども扱いするのか

ペホス・認知症ケア・コミュニケーション講師
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すし職人として70歳まで働いたKさん

 Kさん(80代・男性)は、子どもの頃からすし職人になるのが夢でした。高校卒業後、隣県のすし屋で修業をし、30歳を目前にしてのれん分けをしてもらい、地元ですし屋を開店しました。そして、開店と同時に結婚し、1男1女をもうけて、幸せな家庭を築いてきました。

 65歳まですしを握ってきたKさんですが、長年の立ち仕事で腰痛が悪化し、手術をきっかけに調子が悪い時は臨時休業するようになりました。地元でなじみのお客さんもいたのですが、70歳を目前にしてお店を閉めて引退することになりました。

ゆっくり過ごせる時間が増えて

 若い頃から仕事一筋だったKさんは、引退直後は旅行に行ったり、孫たちと外食を楽しんだりしていましたが、趣味らしい趣味がないので、毎日どう過ごしていいのか分からずにいました。

 娘さんからは、「常連さんに誘ってもらって、囲碁でもなんでもやってみたらいいのに」と言われますが、なかなか気が進まないので、家でテレビを見て過ごす時間が多くなっていました。

 そんな刺激の少ない日々を過ごしながら5年も経過すると、やはり年相応にもの忘れが見られるようになってきました。息子家族や娘家族が訪ねると、あまりこれまでと変わらない印象だったのですが、Kさんの妻が様子の変化を気にして主治医に相談しました。

 検査の結果、軽度のアルツハイマー型認知症だと診断されました。

これは認知症のせいなのか?

 そうはいっても、しっかりしている時間も多く、会話は普通にできることの方が多かったので、息子さんも娘さんもまだまだ大丈夫そうだなと思っていました。

 ところが、診断から1年が経過した頃から、息子さんにとって気になることが出てきました。

 それは、Kさんが「どうでもいいようなことを確認してくる」ということでした。

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ペホス

認知症ケア・コミュニケーション講師

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケア・コミュニケーション講師」「認知症ケア・スーパーバイザー」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。アプロクリエイト代表。