令和の幸福論

「役立つ」ことを強いられる日本の子どもたち

野澤和弘・植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員
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自分に自信を持てない若者たち

 こんなに若者が自分に自信を持てないのはなぜだろう、と思うことが最近よくある。

 高齢者ばかりがどんどん増えていく現実を見れば、自分たちの将来に明るいものを見いだせないのかもしれない。いや、たまたま私の出会う若者が元気ではないだけで、新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るっているのに、平気で街に繰り出す若者は多いじゃないかと思ってみたりもする。しかし、どれもこれも確信が持てない。

 ユニセフ(国連児童基金)による先進国の子どもの幸福度ランキング調査が昨年9月に公表された。日本の子どもは「身体的健康」は1位だったが、「精神的幸福」は37位と調査対象国の中でワースト2位だった。総合ランキングは20位だ。

 戦争やテロがなく治安も良い、食料事情も衛生面も断然良いはずだ。高校進学率は98.8%。恵まれた環境であることは間違いない。それなのに「精神的幸福」は先進国最低レベルなのだ。身体的健康との落差はどこから来ているのだろうか。

子どもの問題にこそ緊急事態宣言を

 たしかに、いじめや不登校は増え続けている。自殺率は主要7カ国(G7)の中で最も高い。幸せではない気がするといった程度の問題では済まない。何かがおかしい。

 菅義偉政権は「こども庁」の創設を打ち出している。その問題意識の方向性は間違っているとは思わないが、どこか悠長な感じがしてもどかしい。

 日本の子どもたちの状況は想像以上に危機的だと思う。子どもの問題にこそ緊急事態宣言でも出して、あらゆる手立てを講じないと手遅れになりそうな気がしてならない。

「子どもの幸福度調査」で低迷する日本

 子どもの幸福度調査とは、ユニセフ・イノチェンティ研究所が2020年9月に出した「子どもたちに影響するもの:先進国の子どもの幸福を形成するものは何か(原題:Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)」というリポートで示されたものだ。

 各国の比較可能なデータをもとに経済協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)に加盟する国々の子どもたちを対象に、新型コロナウイルス感染症発生前のデータを用いて、「身体的健康(Physical health)」「精神的幸福(Mental well-being)」「スキル(Skills)」について分析した。

 「幸福」といっても、ハピネス(Happiness)が瞬間的に感じる幸せであるのに対し、ウェルビーイング(Well-being)は継続的に続く幸せ感であることに留意する必要がある。その子の生活の質や人格形成にも関係する重要な要素と言っていいだろう。

 今回のリポートによると、「身体的健康」については、日本の子どもはトップだった。国民皆保険で医療を受けやすく、学齢期には定期的な健康診断なども実施されているため、死亡率や肥満の割合が低いことが大きな要因だ。

 一方、「精神的幸福」は37位と下から2番目だった。15歳時点で生活満足度の高い子どもの割合はトルコについで2番目に低く、15~19歳の若者の自殺率も高いことなどが要因となっている。

「すぐに友達ができる」社会的スキルが低く

 「スキル」は学力と社会的スキルを評価する。学力については、OECDが進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査において、読解力・数学分野で基礎的習熟度に達している15歳の割合をデータに用いた。年によって変動はあるが、だいたい日本の子どもはいつも高いランクに位置している。

 社会的スキルについては、「すぐに友達ができる」と答えた15歳の割合だ。これを基にランキング化した。新しく友達を作るという社会的スキルは、大人になってから対人関係を良好に築けるかどうかの指標となる重要な調査とされている。ルーマニア、ノルウェー、クロアチアなど意外な国が上位に並ぶが、日本はチリについで2番目に低かった。

 これらの結果、「スキル」に関する日本の子どもの総合評価は38カ国のなかで20位だった。

 総合評価で子どもの幸福度1位だったのはオランダで、2位デンマーク、3位ノルウェーと北欧諸国が続く。スイスとフィンランドを含めた5カ国は3項目いずれもトップクラスに位置づけられている。逆に、最底辺にはチリ、ブルガリア、アメリカが位置する。

 その国の経済的な豊かさと子どもたちの幸福度にはあまり関連性がないのが特徴だ。また、日本や韓国のように身体的健康は高いが、精神的幸福は低い国もあれば、ルーマニアのように逆の国もある。

定まっていない幸福度の測り方

 国内総生産(GDP)などの経済の数値ではなく、人々が幸福を感じる度合いが注目されるようになったのは最近のことである。何をもって幸福度を測るかについては定まったものがなく、イノチェンティ研究所が先進国の子どもの幸福度を最初に発表した00年から、調査のたびに分析される分野や項目は変わってきている。日本の子どもの幸福度が先進諸国のなかで6位とされた13年調査では、「物質的豊かさ」「健康と安全」「教育」などが調査項目とされた。

 今回の調査は「精…

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野澤和弘

植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員

のざわ・かずひろ 1983年早稲田大学法学部卒業、毎日新聞社入社。東京本社社 会部で、いじめ、ひきこもり、児童虐待、障害者虐待などに取り組む。夕刊編集 部長、論説委員などを歴任。現在は一般社団法人スローコミュニケーション代表 として「わかりやすい文章 分かち合う文化」をめざし、障害者や外国人にやさ しい日本語の研究と普及に努める。東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」顧問 (非常勤講師)、上智大学非常勤講師、社会保障審議会障害者部会委員、内閣府 障害者政策委員会委員なども。著書に「スローコミュニケーション」(スローコ ミュニケーション出版)、「障害者のリアル×東大生のリアル」「なんとなくは、 生きられない。」「条例のある街」(ぶどう社)、「あの夜、君が泣いたわけ」 (中央法規)、「わかりやすさの本質」(NHK出版)など。