
帰り道がわからなくなり警察に保護
Aさん(70代・女性)が初めて警察に保護されたのは、Aさんの自宅から5kmほど離れた大きな通りの歩道でした。
不安げな表情で、服装もきちんと整えられておらず、明らかに困っている様子を察した人が声をかけてみたところ、初対面にもかかわらず、「あら、ご無沙汰しています」と言ったそうです。認知症で道に迷っているのだと考えて、その人が警察に連絡をしてくれたのでした。
警察は行方不明者届が出ていないと身柄を保護してパトカーで移送することができないらしく、ご家族に連絡がついてから、自宅まで送り届けてくれたようです。
ご家族が限界を感じて施設へ入所することに
Aさんはアルツハイマー型認知症と診断されてから、3年が経過していました。家の中では身の回りのことは自分なりにできていたので、近所に暮らしていた長男夫婦は「まだまだ自宅で過ごせるだろう」と思っていました。
自宅からかなり離れた場所で保護されたことも、長男夫婦にとってはショックだったようです。命の危険を回避するために、Aさんには認知症対応型の介護老人保健施設へ入所してもらうことにしました。
Aさんは、記憶力の低下がありましたが、道に迷ったことは不安やショックが大きかったためか覚えていました。「行方不明になって命を落とされたら悔やんでも悔やみきれない」と長男に言われて、「それもそうだね」と施設に入ることを了解しました。
入所したのは、初めて警察に保護されてから、ちょうど5カ月後のことでした。
時間とともに表情が失われていったAさん
Aさんは身の回りのことはできるので、食事やトイレは声をかけてもらえれば、あとは自分なりにできる状況でした。ただし、服の着方がわからなかったり、場所の理解ができなかったりと、認知面では認知症の影響がみてとれたので、その力を維持・向上するようなリハビリを行っていました…
この記事は有料記事です。
残り1045文字(全文1835文字)
認知症ケアアドバイザー
ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら。