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新型コロナ ワクチン接種はよく考えて

谷口恭・谷口医院院長
厚生労働省で開かれたワクチン分科会副反応検討部会=東京都千代田区で2021年3月12日午後1時2分、幾島健太郎撮影
厚生労働省で開かれたワクチン分科会副反応検討部会=東京都千代田区で2021年3月12日午後1時2分、幾島健太郎撮影

 私が院長を務める太融寺町谷口医院の患者さんのみならず、医療プレミアの読者の方々からも「新型コロナウイルスのワクチンは打つべきでしょうか」という質問がたくさん寄せられています。この連載で何度もお伝えしているように、ワクチンの基本は「理解してから接種する」です。これは裏を返せば「理解した上で接種しない」という選択肢もあるということです。では、新型コロナウイルスに対するワクチンではどう考えればいいのでしょうか。

 2月18日に毎日新聞大阪本社で開催した私の講演では、てんびんのイラストを示し、リスクとベネフィット(利益)のどちらが重いかを検討すべし、という話をしました。講演した当時は、新型コロナワクチンの副作用(副反応)についてはよく分かっていませんでしたが、その後いろんなことが明らかになりました。今回は、現時点で分かっているワクチンのリスク及び有効性を確認した上で、改めてワクチンの原則「理解してから接種する」ということを考えてみたいと思います。

接種後の死者55人は「評価不能」

 リスクからみていきましょう。厚生労働省が5月26日に公表した資料によると、5月21日までにファイザー社製のワクチンを接種した611万人余りのうち、25歳から102歳の男女85人の死亡が確認されています。このうち5月16日までに報告があった55人について、同省は専門家に評価を依頼しました。そして55人全員について「情報不足等によりワクチンと症状名との因果関係が評価できない」との結論を受け取っています。

 この「評価できない」は、平たくいえば「死亡が副反応であるのかないのか分からない」という意味です。リンク先の資料には、他に考えられる評価結果として「ワクチンと症状名との因果関係が否定できない」(副反応だろう、ということ)と、「ワクチンと症状名との因果関係が認められない」(副反応ではない、ということ)が挙げられています。「評価不能」は、このどちらでもないのです。※編集部注。

 そして、この専門家の評価を受け、政府(厚労省)は「ワクチンの接種体制に影響するような重大な懸念は認められない」としています。

新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場に用意された注射器=仙台市宮城野区で2021年5月24日午後3時32分、和田大典撮影
新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場に用意された注射器=仙台市宮城野区で2021年5月24日午後3時32分、和田大典撮影

 この連載の読者の方にはお分かりいただけると思いますが、私はこれまでコロナに関する行政の発表や方針を否定的に論じたことはほぼありません。「後で間違いであることが分かったとしても、そのときにはそう判断せざるをえない理由があったと考えるべきで、非常事態には政府を応援すべきだ」という意見を繰り返し述べてきました。

「100万人に14人」の死者は多いか少ないか

 しかし、今回ばかりは政府の見解に納得できません。611万人余りの接種者に対し、死亡者が85人ということは、100万人あたり約14人が死亡していることになります。これは日本で定期接種に分類されている他のどのワクチンよりもはるかに高い数字です。通常、ワクチンは100万人に1人に重篤な副反応が出ると説明されます。つまり、この時点でコロナワクチンは他の一般的なワクチンに比べて桁違いに「安全でない」と言えるわけです。

 ただし「100万人に14人でもまだ少ない」という考えもないわけではありません。行政や公衆衛生学者の視点からは、ワクチンを認可せずに大勢の国民がコロナで死亡するよりも、ワクチン接種後に“ある程度の”死亡者が出たとしても、ワクチンで助かる人が多ければ、そちらの方がいいわけです。つまりある程度の死亡は“許容範囲”とみなされるのです。彼(彼女)らは、あなた個人のことではなく、国民全体のことを考えているのです。

 それから、この手の議論になると必ず出てくる理屈に「ワクチンを打っても打たなくても死ぬ人は死ぬ」というものがあります。たしかに、ワクチン接種にかかわらず日本では毎日4000人弱の人が他界しているのですから、そういう“運命”の人が、たまたま寿命が尽きる直前にワクチンを打っていたということもありえます(ただし、厚労省が「副反応の疑い」として報告を求めているのは、アナフィラキシー以外の場合、「医師が予防接種との関連性が高いと認める症状<死亡も含む>」なので、明らかにワクチンと関係ない死亡は、本来なら報告されないはずです)。

死者が問題視されない場合

 この“運命”を示した研究もあります。医学誌「American Journal of Preventive Medicine」の2013年7月1日号に掲載された論文「ワクチン接種を受けた集団における死亡率と死因のパターン(Mortality Rates and Cause-of-Death Patterns in a Vaccinated Population)」によると、75歳から84歳までの10万人の米国人のうち、23人が予防接種後1週間のうちにさまざまな要因で(つまりワクチンとは関係なく)死亡していました。

 もう一つ、このことを示した興味深い事例を紹介しましょう。2020年に韓国でインフルエンザワクチンを接種した直後に30人以上が死亡したことが報道されました。同時に、ワクチンの管理が一部でずさんだったことが分かり、一部のワクチンが回収され、またシンガポールは韓国製ワクチンの使用を一時的に取りやめました。しかし「韓国製のワクチンは危険」という声は、比較的短期間でおさまりました。おそらく行政や公衆衛生学者がきちんと説明し、亡くなった30人の死因はワクチンに関係なかったことを説明したからでしょう。

ワクチンの優先接種を受ける女性看護師(左)=埼玉県所沢市の防衛医科大病院で2021年4月10日午後1時14分、松浦吉剛撮影
ワクチンの優先接種を受ける女性看護師(左)=埼玉県所沢市の防衛医科大病院で2021年4月10日午後1時14分、松浦吉剛撮影

 では、今現在日本で起こっているコロナワクチン接種後の死亡はどう考えればいいのでしょうか。

 先述の厚労省のデータによると、専門家が評価済みの55人の死亡例のうち、3人は「老衰」が原因とされています。考えてみてください。あなたの大切な家族が新型コロナのワクチンを接種して数日後に突然死し、それを「老衰」と言われて納得できるでしょうか。もう少ししっかりと死因を調べるべきではないでしょうか。なお、納得できるような状態だったとすれば、大勢の医療者がまだ打てていない貴重なワクチンを、老衰で亡くなるのが間近の高齢者が打つべきなのか、という話につながるかもしれません(もっとも、老衰の中にはまったく予期せず突然……というものも多数あるのは事実ですが)。

 ちなみに、ワクチンが原因で死亡すれば、遺族は4420万円の補償を受け取れますが、老衰ではもちろんゼロです。

納得できない事例

 もう一つ、私が厚労省の見解に納得できない事例を挙げましょう。厚労省の資料の18ページで「事例2」として26歳の女性の死亡が報告されています。資料によると、この女性は基礎疾患なし。死後の検査で、死因は「小脳出血」と「くも膜下出血」と判明しました。週刊誌の報道などによると、女性は看護師で、出勤するはずの日に自宅で食事をとりながら突然死したとみられます。

 この女性看護師の死が「ワクチンとの因果関係があるとは言えない」のは事実でしょう。ワクチンがどのようなメカニズムで脳内に出血をもたらしたかについて100%の確証をもって説明できる学者はいないからです。ですが「ワクチンとの因果関係はない」と断言することもできないはずです。

 もちろん死亡者のなかには、ワクチンとは関係なく、つまり先述の米国の研究が示すような、ワクチンに無関係の「寿命」であった人もいるかもしれません。しかし、それならば、死亡者の報告数は、他のワクチンと同等の数字になるはずです。他のワクチンでこれほど多くの死亡が報告されず、コロナワクチンのみ大勢が死ぬことには理由があるはずです。

 では、結局のところワクチンは打つべきなのでしょうか、控えるべきなのでしょうか。私の考えは、以前から言い続けているように「理解してから接種する」です。

今は非常事態

 コロナ禍の今、「理解」しなければならない事実のひとつは「非常事態が続いている」ことです。非常事態が続いているからこそ、十分な治験期間を経ていない、開発されて間もないワクチンが、長期的な安全性には目をつぶり、世界中の大勢の市民に接種されているわけです。ですから、新型コロナのワクチンは他のワクチンよりもリスクが高くて当然、つまり「リスクが高いことを前提としたワクチン」なのです。

百貨店など大型商業施設への休業要請が一部緩和された緊急事態宣言の延長初日、銀座の街を歩く人たち=東京都中央区で2021年6月1日午後1時36分、手塚耕一郎撮影
百貨店など大型商業施設への休業要請が一部緩和された緊急事態宣言の延長初日、銀座の街を歩く人たち=東京都中央区で2021年6月1日午後1時36分、手塚耕一郎撮影

 新型コロナのワクチンを接種するということは、そのリスクがまだ分からない、つまり安全性が担保されていない物質を体内に注入することを意味します。もちろん、一方では高い有効性が報告されています。米食品医薬品局(FDA)が20年12月に発表した報告では有効率が94.5%とされ、この数字が極めて高いのは事実です。

 これだけ強い感染力を有し、若者でさえも重症化し得る新型コロナウイルスのワクチンを接種しないということは「大きなリスク」と言えるでしょう。一方、他のワクチンよりも死亡する確率が桁違いに高く、安全性が担保されていないワクチンを打つのもまた「大きなリスク」と言えます。打つのもリスク、打たないのもリスク、なのです。それが非常事態下でのワクチン対策です。

 ではどうすればいいのか。まずはあなた自身がリスクとベネフィットをてんびんにかけてよく考え、そして大切な人と話し合ってみてください。

※編集部注 編集部は、この「情報不足で評価できない」について、厚労省に確認しました。同省によると、この55人については積極的に情報を集めたが、それでもなお「情報不足」になったそうです。ですから今後、情報が増えて「副反応だろう」や「副反応ではない」と新たな結論が出る可能性は薄い、ということでした。

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谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。