医療プレミア特集

なぜ日本でピルは普及しないのか 根強く残る“自然信仰” 宋美玄さんに聞く/下

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
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 日本では、「経口避妊薬(ピル)」は米国から約40年遅れで1999年に承認されたものの普及せず、より手軽で体への負担が少ないパッチ剤や皮下インプラントなどはいまだ承認されていない。人工妊娠中絶については、88年にフランスと中国で認可され、現在70カ国以上で承認されている外科的処置不要の「経口妊娠中絶薬(経口中絶薬)」が年内にも薬事承認の申請がなされる見通しとなったところだ。「性教育もまともにしていないのに、中絶が女性に対して罰ゲームのようになっている」。産婦人科医で丸の内の森レディースクリニック院長の宋美玄(ソン・ミヒョン)さん(45)は指摘します。【聞き手・西田佐保子】(前編:避妊、生理痛の改善効果も ピルやミレーナどう選ぶ? 宋美玄さんに聞く)

“自然”に生理痛を治したい女性たち

 ――皮膚に貼り付けるパッチ剤、皮下インプラント、筋肉内注射などのホルモン製剤による避妊法が日本で承認されれば女性の選択肢が増えると思いますが、いまだに認められていません。

 ◆日本でも多くの女性がホルモン治療をする土壌があれば、すでに販売されていてもおかしくありません。そもそもピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS、避妊器具)のミレーナ(製品名)もあまり広まらなかった現状があるので、製薬会社が新薬承認のために時間と費用を掛ける判断に至らないのではないでしょうか。

 ――確かに日本でのピル普及率は1~3%と言われています。なぜ、ピルやミレーナは普及しないのでしょうか?

 ◆ピルの服用率は微増してはいるようですね。「避妊目的の場合は保険適用外で値段が高い」「産婦人科を受診して処方してもらう必要がある」といった理由もあると思いますが、やはり、ピルなどのホルモン製剤に対して抵抗を感じている人が多いからではないでしょうか。

 日本は避妊目的だけではピルは広がりませんでした。「月経困難症(生理痛)や子宮内膜症の治療薬です。避妊のためではありません」と言い訳をして使っている女性もいますね。「避妊目的で飲んでも何も悪くないので、避妊目的の人も堂々としてほしい」と思います。

 ――「避妊目的は恥」という気持ちが強いのでしょうか。

 ◆避妊目的でピルを飲んでいる人は性に奔放という偏見がまだあるのだと思います。また、ピルに頼るのではなく、漢方や、オーガニックな食事、ヨガなどで改善したいという人が多いですね。書店の「妊活コーナー」に行ってみると、「妊娠する食べ物」をテーマにした書籍をはじめ、「自然に授かる」ことをうたった本がずらりと並んでいます。

 生理痛で鎮痛剤を飲むのさえ限界まで我慢している人がいます。痛みに耐えても何のメリットもないし、若くて健康な女性が月に何錠か鎮痛剤を飲んだところで副作用はほぼありません。「飲んだものが体にたまって将来悪いことが起こる」「将来、生まれる子どもに悪影響がある」こともありません。

 ――女性の健康問題や、生理、妊娠や出産においては、“超自然派”がもてはやされる傾向があるように感じます。布ナプキンもそうですし、「女性は昔、膣(ちつ)内に経血をためて排出を調整していたので、現代女性も骨盤底筋を鍛えよう」と唱える「月経血コントロール」も話題になりました。

 ◆「布ナプキンで病気が治る」と言われると「そうかな」と信じてしまう人もいますが、メリットがあるとしたら、かぶれにくさだけです。月経血コントロールも一時ブームに…

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西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。