現代フランス健康事情

マダニの季節 すぐそこにいる脅威

竹内真里・フランス在住ライター
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フランス国内のシダ植物が生い茂る散策路。ハイキングや乗馬トレッキングを楽しむ人たちが通っていく=筆者撮影
フランス国内のシダ植物が生い茂る散策路。ハイキングや乗馬トレッキングを楽しむ人たちが通っていく=筆者撮影

「ライム病」って何?

 昨年夏の記事「夏本番 悪さをする生き物にご用心」で、感染症を媒介する生き物たちについて触れた。今回は、その中でもマダニに注目したい。日本国内でも時々報道されているが、まだ実物を見たことがない人や、かまれた経験がない人もいるだろう。

 筆者が幼い頃は、雑草が生い茂る原っぱなどに寝転んだり、駆けずり回ったりして遊んでいたものだが、「マダニに気をつけなさい」などと言われた記憶はない。寝具の「ダニ」は知っていたけれど「マダニ」の存在を知ったのは、海外の有名人が「ライム病」にかかったことを発表し、「なんだそれ?」と関心を持ってからだ。

 フランス国立農業・食糧・環境研究所発表の資料によると、一般医によるライム病の診断が2018年は6万7000件、19年は5万133件あった(フランス本土)。かまれた部位が赤くなったり(遊走性紅斑)、インフルエンザのような症状が出たりする。他にも、人間や動物に害をもたらすダニ媒介性脳炎、バベシア症、リケッチア感染症など、マダニが媒介する病気は10種ほど確認されている。11年に中国で発表され、致死率も10~30%と高く、日本や韓国で死者が出ている「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」はフランスでは未確認のようだ。

3割が庭や公園でかまれた経験

 マダニにかまれる機会があるとすれば、丈が高い草むらに分け入ったり、自然豊かな野山へとハイキングに行ったりした時ぐらいだと思いこんでいた。しかし、筆者の住むオーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏(フランス南東部)でも、約30%の人が自宅の庭や市民が集う公園などでかまれたという統計がある。

 17年から19年にかけては、28%の人が、かまれた場所は近所の公園や自宅の庭と回答している。20年の3月と4月(新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための第1回目の厳しい外出制限時)は、46%に跳ね上がった(同研究所発表の資料より)。

「吹き出物かな」と思ったら

 さて、話は昨年8月に戻る。前出の「夏本番 悪さをする生き物にご用心」を書き終え、私は夏休みでピレネー地方に向かった。滞在先に着いた翌日、太ももの後ろ側、自分の目では確認しづらい位置にポツッと小さく膨らんだ箇所があった。「吹き出物かなあ」と、さほど気にも留めなかった。翌朝、簡単なハイキングに出かけた。「こういうところにいるんだよね、マダニって」と話しながら歩いた。そして夜、例の吹き出物らしき箇所に再び触れてみると、肌からちょっと分離して、引っ張ったり、ねじったりできた(注:皆さんはやらないでください)。「これはただの吹き出物ではない。もしやこれは……」。恐る恐る家族に見てもらうと「マダニが頭を突っ込んでるよ!」。

 ハイキングに行く前からくっついていたことになるので、いったいどこでかまれたのか、さっぱり見当がつかない。痛みやかゆみは感じなかった。吸血し…

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竹内真里

フランス在住ライター

1978年千葉県生まれ。2000年から2002年までフランス南部マルセイユに滞在。その後、東京や香港でライターとして取材・執筆に従事。2015年に再びフランスへ。現在はリヨン市内でフランス人の夫、娘と暮らしながら現地情報を発信している。