実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-

新型コロナワクチン 首相の立場と個人の立場

谷口恭・太融寺町谷口医院院長
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大阪市が設置した新型コロナウイルスワクチンの「大規模接種会場」で問診室に入る人たち=大阪市住之江区で2021年6月7日午前10時11分、梅田麻衣子撮影
大阪市が設置した新型コロナウイルスワクチンの「大規模接種会場」で問診室に入る人たち=大阪市住之江区で2021年6月7日午前10時11分、梅田麻衣子撮影

 新型コロナウイルスのワクチンを打つべきか否か、子供にはどうすべきか――。ワクチンに関する問い合わせは増える一方です。私が院長を務める太融寺町谷口医院をかかりつけ医にしている患者さんだけでなく、医療プレミアを含むメディアでの私の発言を読んだ人たちからの問い合わせが相次いでいます。

 私自身はすでに2回のワクチン接種を済ませ、当院のウェブサイトやメディアの取材記事で、ファイザー社及びモデルナ社製ワクチンの高い有効率について述べています。だから「ワクチン肯定派の谷口先生に質問が……」という表現をとる人がいます。一方で興味深いことに、私が書いたワクチンのリスクについての記事を読まれたからなのか「反ワクチン派の谷口先生は……」と書いている人もいます。

 私が書いた同じ記事を読んだのにもかかわらず、人によって、私自身が「ワクチン肯定派」にも「ワクチン否定派」にもなってしまっていることがとても面白く感じられます。心理学で「選択的注意」と呼ばれる「人間は見たいものしか見ない」という説で説明できる事象かもしれません。

 さて、今回言いたいのは心理学の話ではなくて、ワクチンによる「対立」はどうすれば理解できるか、ということです。「賛成派対反対派」という対立の図式は非常に分かりやすく、ついつい我々はこのような考え方をしてしまいがちですが、このような対立がエスカレートすればますます社会は混乱し誰も得をしません(ウイルスだけがほくそ笑んでいるかもしれません)。

 人間関係の基本のひとつは「自分のことを理解してもらう前に相手のことを理解する」です。ですから、「自分が言っていることが正しいに決まっている。それに反対するやつらがおかしいんだ」という考えはたいていの場面で捨ててしまった方がいいわけです。

 ワクチンに関して言えば、あなたにとっての最重要事項は「あなた自身及びあなたの大切な人を守るために、接種を受けるべきか否か」でしょう。では、別の立場で考えれば、例えば感染症拠点病院の医師や、厚生労働省、あるいは首相の視点に立てばどうなるでしょうか。

あなたが首相だったら

 今回は「もしもあなたが首相だったら」と…

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谷口恭

太融寺町谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。