
「みとりの専門家」中村仁一先生
人生の終末期を考えるにあたって私が大きな影響を受けたのは、京都の中村仁一先生です。中村先生は京都大学卒業後、高雄病院(京都市右京区)の院長、理事長を経て、2000年からは社会福祉法人「同和園」(同市伏見区)の老人ホーム付属診療所所長などを歴任された医師で、同市内で1996年から「自分の死を考える集い」を開催されていたみとりの専門家です。
私たちが主催している「生き方・死に方を考える社会フォーラム」に中村先生を講師としてお呼びし、いろいろとお話を聞かせていただきました。
「生き方・死に方を考える社会フォーラム」が始まったのは、約10年前、男性の生き方について一緒に仕事をしていた社会学者であり、浄土真宗本願寺派の僧侶でもある大村英昭先生に大腸がんが見つかったことがきっかけでした。一般に、大腸がんの予後は良いのですが、発見時にはすでに腹膜転移を伴っていて、主治医からは1年もたないだろうと言われていました。
当時は男性の「生き方」に関して勉強会や講演会を開いていましたが、大村先生の病気を機に男性の「逝き方」を中心に学び、大村先生の業績を世に残すためにフォーラムを設立しました。大村先生は、自分の最後について「死に方のダンディズム」というような「かっこいい死に方」を模索されていました。抗がん剤治療も髪の毛が抜けるため、治療開始からまもなくやめました。
最後は好きなようにしよう
愛煙家でもあり、私に「たばこはやめたほうがよいのか?」と質問されました。私は「失礼かな」と思いながらも「今さら禁煙しても『五十歩百歩』ですよ」と無理に止めませんでした。その後も、食事会で酒をたしなみ、喫煙ルームでたばこを吸われる大村先生の姿を見て、私も「少々寿命は短くなっても、最後は好きなようにしよう」と決めま…
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大阪大学招へい教授
いしくら・ふみのぶ 1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨー・クリニック・リサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から17年3月まで大阪樟蔭女子大学教授、17年4月から大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う(眼科イシクラクリニック)。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための「男のええ加減料理」の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る「日本原始力発電所協会」の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。「妻の病気の9割は夫がつくる」「なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略」など著書多数。