医療プレミア特集

新型コロナワクチンへの不安とどう向き合うか

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
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 日本で使用されている米ファイザー社製と米モデルナ社製の新型コロナウイルスワクチンは、高い有効性が確認されている。しかし、副反応への警戒感からワクチン接種に対して不安を感じている人も少なくない。長野県の新型コロナワクチン接種アドバイザーで、小児科医の坂本昌彦さん(44)は「心配はごもっともだと思います。どんな不安もナンセンスなことではありません」と話す。新型コロナワクチンについて坂本さんにインタビューする後編は、ワクチンに対する不安との向き合い方を中心に聞いた。(聞き手・西田佐保子)【前編:新型コロナワクチン 接種前と後に知っておきたいこと】

ワクチンに不安がある人の気持ちに寄り添う

 ――「ワクチンをうちたくない」と考える人たちは、全てのワクチンを忌避する人、デマを信じて恐れている人、新しいワクチンへの長期的な安全性を心配する人、自分は若くて重症化しないから必要ないと思っている人などさまざまです。「それはデマです」と指摘されることで安心できる人ばかりではありません。「反ワクチン派」とひとくくりにして「正確な情報で相手をたたく」ことをしても、不安や誤解はぬぐえず、ワクチン接種を進めようとする人たちとの溝がより深まるだけだと思います。

 ◆それは重要な視点ですね。小児科では子どもの健康に関する物事(予防接種など)の方針を決めるのは保護者であり、どのように保護者へ説明するか悩みます。100人の子どもがいれば、定期予防接種を受けさせたくないというお父さんやお母さんは1~2人はいます。ワクチン接種の必要性を伝えるべきなのか、日本ではワクチン接種は義務ではありませんから「受けるかどうかは個人の自由です」と言ってしまっていいのか、と。

 「これはデマです」と言ってもらうことによって安心できる人もいますから、デマをうち消すことは大切です。しかし、否定されることで、逆に反発を強める人もいます。(イソップ寓話<ぐうわ>の)「北風と太陽」ですね。風を吹かせれば、コートが脱げないようにかたくなになる人は必ず出てきます。心を開いてもらうには、その人を否定してはいけません。

 「あなたは間違っている」と断じれば、「自分のことをわかってくれない」と心を閉ざしてしまいます。心理学では「ブーメラン効果」と呼ばれますが、「人は自分の意見を否定されると、さらにかたくなになり、より熱く反論を繰り出す」ことが知られています。

 多くの小児科医は、ワクチンに不安を抱いている保護者には「不安なのは当然ですよ。うちたくないですよね、分かります」と、その気持ちに寄り添う態度で接します。ワクチンへの不安をあおる人たちの言葉は感情に訴えるものですから、非常に影響力が強いです。人間はいざというときには論理よりも感情で判断すると言われます。だから、まずは安心してもらうことが大切なのです。

 たとえ話をしてみましょう。自分たちが警備している管轄海域を漂流している船がいたとします。ミサイルを撃って一発で船を止める方法もあります。しかし、それでは撃ち損じる恐れもあります。

 ですから、実際は、その船に近づいて同じスピードで進みながら「ハンドルが壊れていますか?」「かじが壊れていますか?」「何か手助けできますか?」と、困りごとを聞いて支援することになります。根気が必要ですが、このようなアプローチを活用できれば、社会の分断を和らげる方向へ近づけるのではないでしょうか。

不安を解消するために必要な情報とは?

 ――これまで使われたことがない技術を使った新しいワクチンという、未知のものへの不安もあります。

 ◆新しいワクチンの長期的な安全性を心配するのは自然なことです。50年以上前に開発され、接種した赤ちゃんが、50歳の大人になっても元気に過ごしていれば、「50年は大丈夫な実績がある」と言えます。しかし、新型コロナのワクチンにそのような実績はありません。

 とはいえ、今はパンデミック(世界的大流行)のさなかです。このまま何十年も待つわけにはいきません。そこで、理論的に10年後、20年後も問題ないだろうと判断され、使用されているのが、現在の日本で使われている「m(メッセンジャー)RNAワクチン」なのです。

 これは、新型コロナウイルスの遺伝情報の一部を使っています。「遺伝情報」という言葉も、多くの人の不安の原因になっているようです。mRNAは、人の細胞の核の中に入りこむことはできませんから、一人一人の遺伝子に影響を及ぼすことはありません。また、とて…

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西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。