
不妊治療は、ひと昔前と比べると身近になりました。今や、夫婦の5.5組のうち1組が不妊検査や治療を受けており、また16人に1人の子が体外受精や顕微授精などの高度不妊治療で誕生しています。一方、不妊治療は通院する回数が多く、周囲の理解不足によって、仕事との両立に悩む女性が多いのが現状です。今回は、不妊治療と仕事との両立の実態と、職場における支援の必要性について紹介します。
不妊治療による高い離職率
不妊治療の費用負担の軽減は、菅義偉首相肝いりの少子化対策の一つで、2022年4月からは不妊治療への保険適用が予定されています。それまでの措置として、今年1月から体外受精と顕微授精への助成が拡大されました。コロナ禍で少子化が加速する中、出生率の向上に対する効果は限定的でしょうが、赤ちゃんを望む夫婦にとってはうれしいニュースでしょう。
一方、治療代の負担は減っても、不妊治療と仕事との両立には大きな課題が残っています。私の周りにも「働きながら不妊治療を続けるのは難しい」として、フルタイム勤務をあきらめてパートになった友人や、逆に不妊治療をあきらめた友人もいます。
仕事と不妊治療の両立に関して厚生労働省が実施した調査(2017年度)によると、不妊治療をしたことがある、または予定している労働者のうち、両立できず「仕事をやめた」と答えた人は16%、「不妊治療をやめた」という人も11%いました。
また、仕事と両立できなかった理由の上位には、「精神面で負担が大きいため」「通院回数が多いため」「体調、体力面で負担が大きいため」――が挙げられていました。
不妊治療における身体的・精神的負担
では、不妊治療では、どのような負担が生じるのでしょうか。不妊治療には、排卵日を特定して性交渉を持つ「タイミング法」、精液を注入器で直接子宮に注入する「人工授精」、卵子と精子を取り出して受精させ、子宮内に戻す「体外受精」や「顕微授精」の三つのステップがあります。
治療がステップアップしていくのに伴って治療期間は長くなり、費用も高額になっていきます。1回当たりの費用は、…
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北里大学講師
かち・ゆうこ 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。2006年から10年間、臨床心理士として子どもや女性のカウンセリングにあたる。帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座助教、日本医科大学衛生学公衆衛生学教室助教を経て、18年4月から北里大学医学部公衆衛生学単位講師。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室客員研究員、国立成育医療研究センター社会医学研究部共同研究員、首都大学東京客員准教授。著書に「保育園に通えない子どもたち――『無園児』という闇」(筑摩書房)、共著に「子どもの貧困と食格差~お腹いっぱい食べさせたい」(大月書店)。自身も子育て中。労働者とその子どもの健康の社会格差をテーマに研究を行っている。