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ADHD治療薬との向き合い方

医療プレミア編集部
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攻撃性発現の副作用も

 「忘れ物が多い」「落ち着きがなくじっとしていられない」という子どもは、発達障害の一つである「注意欠陥多動性障害(ADHD)」の可能性がある。その症状改善に使われるADHD治療薬は、注意力を高めるなどの効果がある一方で、暴言や暴力など攻撃的になる副作用を起こすこともある。学校や親族などから服薬を勧められ、ADHDの診断基準を満たさなくても治療薬を処方されたり、副作用が目立っているのに増量されたりする例もある。ADHD治療薬との向き合い方を取材した。【和田明美】

日本初のADHD適応薬

 ADHD治療薬の一つ「コンサータ(一般名・メチルフェニデート塩酸塩)」は、脳内の神経伝達物質を調整し、神経と神経の情報伝達をスムーズにする働きがある。日本では2007年、ADHDに適応を持つ初めての薬として承認された。埼玉県立精神医療センター副病院長で薬物依存症が専門の成瀬暢也医師は、コンサータについて「集中力を高め、勉強や仕事を手順良くできるようになるといった効果がある」と説明する。

 一方、承認当初から、依存性や乱用の恐れが指摘され、厳しい流通管理が義務づけられた。コンサータの添付文書によると「米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』など確立した診断基準に基づいて診断し、基準を満たす場合にだけ投与すること」とされている。重要な注意事項として、この薬の投与中に攻撃性の発現や悪化が報告されていることを踏まえ、「投与中は、攻撃的行動の発現または悪化について観察すること」と明記されている。

徐々に増えた服用量

 関東地方に住む中学2年の男子は、保育園児だった2歳ごろから活発に動き回るようになり、他の園児に積み木を投げて額に青あざを作らせたこともあった。3歳のときに受けた検査ではADHDの診断基準に達しない「軽いADHDの状態」とされ、多動性は目立たなくなっていたため「問題はない」と判断された。

 しかし、母は、積み木でけがをさせた「事件」が気がかりだった。小学校でも同じようなことがあってはならないと考え、入学前に専門医に相談し、コンサータを処方してもらうようになった。

 最少の1回18ミリを服用すると、男子はおとなしくなり、保育士の指示に従うようになった。しかし、食欲がなくなり、薬の効果が切れた後の夕食だけを食べるようになった。小学生になると、体重が増えたという理由で薬の量が増えた。小学4年のとき、教室で同級生に足をかけて転ばせ、けがをさせたことなどから、さらに増量された。

 5年生になると、放課後に男子宅へ遊びにきていた複数の友人とけんかになり、台所から持ち出した包丁を向けて「帰れ!」と脅すトラブルが起きた。ちょっとしたことで教師から注意されると、机や椅子を倒したり、教科書を破いたりした。6年になると「切れる」ことが頻繁になった。

 中学生になり、知人から「薬の影響で攻撃的になっているのではないか」と指摘されたことや、男子が「やめたい」と言ったことなどから、服薬をやめた。すると、いらいらが徐々に落ち着き、食欲も出て、半年で10センチ以上背が伸びた。

 しかし、昨年秋、授業中にゲームをしていたことをとがめられた男子が、同級生の制服の襟につかみかかった。母は「学校に迷惑をかけられない」と、再びコンサータを服用させるようになった。その後、家族とちょっとしたことで大げんかをしたり、学校で下級生の声や楽器の音を「うるさい」と嫌がったりするようになった。最近は「体がだるい」と言って学校を休むことも増えているという。

攻撃性への対応には減薬か中止

 成瀬医師は、コンサータの副作用について、「食欲減退、不眠、易刺激(いしげき)性(いらいらしやすい)、攻撃性、神経過敏、まれに幻覚、妄想がある。朝飲むと、夕方から夜にかけての効果の切れ目に、いらいらすることもある。薬の効果が切れると、反動で意欲低下と眠気、倦怠(けんたい)感などをきたす」と説明する。

 この男子のように、小さなことで切れたり、友人に包丁を向けたりすることについて、成瀬医師は「コンサータによって攻撃性が出ることがあるので注意が必要だ。改善するには、薬の量を減らすか服薬を中止する。中止すると、しばらくいらいらが続くので、本人のストレスになる要因を取り除いたり、家族がストレスをかけない対応を心がけたりするなど環境整備をしつつ、服薬をやめ続けることが大切だ」と話す。

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