理由を探る認知症ケア

Iさんが他の入居者の食事を下げてしまう理由

ペホス・認知症ケアアドバイザー
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「やめてください」と伝えてもやめてくれない

 今から5年ほど前、ある施設に勤める介護職員から、私に1通のメールが届きました。内容は以下のようなものでした。

 私たちの施設では、出された食事を利用者さんが何割くらい食べたかを記録して、栄養管理をしています。しかし、ある利用者さんが、私たちが見ていない隙(すき)に、他の利用者さんの食事を運搬用のトレーに下げてしまうのです。

 それをされると、誰がどのくらい食べられたのか、記録ができず困ってしまいます。その利用者さんには「片付けないでください」と伝えているのですが、いくら言ってもやめてくれません。どうしたらいいか、アドバイスをいただけないでしょうか。

 メールを読んだ私は、この情報だけでは助言できないと思い、その職員から上司に話を通してもらい、現地で様子を見せてもらうことにしました。

4人の孫をもつ「おばあちゃん」としてのIさん

 対象の利用者さん、Iさん(70代・女性)には、長男と次男がいます。それぞれ結婚しており、4人の孫がいました。お孫さんが遊びに来た時には、腕によりをかけた料理を振る舞うおばあちゃんだったようです。そして、がんを患った夫を自宅でみとった経験もありました。

 夫を亡くして数年がたったころ、通院やごみ出しの日付を間違えるようになりました。心配した長男夫婦が付き添って受診したところ、アルツハイマー型認知症と診断されました。要介護認定が下り、デイサービスや訪問介護サービスを受けるようになりました。徐々に鍋を焦がしたり、道に迷って家に帰れなくなったりしたため、この施設に入所したということでした。

判断力、記憶力……たくさんの力を秘めたIさん

 介護職員が困っていた下げ膳(食べ終えた食事を運搬用トレーに戻す)行為について、実際の様子を見せてもらいました。

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ペホス

認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら